コロナで経済は変わったか?FRBの答えは「ノー」 パウエル氏がアクセルもブレーキも踏まない訳
今後数年間の経済に対するパウエル氏の見立ては極めて楽観的だ。同氏は2021年の人手不足を、アメリカの労働力が抱える構造問題を示す証拠とは見ていない。コロナ禍から経済を再開する中で、労働力を再配置する難しさが表れたという立場だ。
賃金と物価がスパイラル的に上昇する1970年代のような悪循環に陥る可能性にも否定的だ。
「インフレが私たちの想定を超えるリスクはある」。パウエル氏はそう認める一方で、こうも付け加えた。「四半世紀にわたって経済の根底に存在し続けてきたインフレの力学が大きな影響を受ける可能性は低いと考えている。このような力学を生み出している根本的な要素は何も変わっていない」。
ここで言う「根本的な要素」とは、グローバル化や世界の高齢化などだ。
パウエル氏の3大ミスとその教訓
さらに注意深く観察すれば、パウエル氏がFRBで犯した3つの大きな過ちに学び、その教訓を生かしていることも見えてくる。
2013年、当時FRB理事だったパウエル氏は、量的緩和(QE)による金融資産の買い入れを段階的に縮小する「テーパリング」を進めるよう当時のベン・バーナンキ議長を後押しした。
しかし、これにより世界の金融市場が大揺れとなり、FRBは方針転換を迫られている(この経験が残した傷跡がいかに深かったか。その一端は、パウエル氏の16日の慎重な口ぶりにも見てとれる。同氏は、今回のFOMCではテーパリングについて「議論することを議論した」にすぎないと語った。テーパリングについて「議論することを議論する段階にはない」とした前回のガイダンスを微妙に修正した格好だ)。
2015年、パウエル氏はインフレが本格化するのを防ぐ目的で政策金利を引き上げる決定を支持した。しかし、このときも世界経済に問題を引き起こす結果となり、アメリカの景気は静かに後退した。後付けの理屈になるが、アメリカの労働市場には当時、まだ改善の余地が豊富に残されていたということになる。