被災者支える「公営バス」から見た復興の現実 震災10年の津波被災地をたどる・宮城南部編

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もちろん津波で大きな被害を出し、まだ再建中。真新しい漁業施設が目立つ。バスの終点は、わたり温泉鳥の海前。同名の公設民営の宿泊・温泉施設があり、展望風呂を堪能させていただいた。

徒歩で荒浜をひとめぐり。タクシーも駆使して地域のショッピングセンターである宮城生協前まで戻って、12時10分発の南部循環線をつかまえる。1日2往復だけ、海や鳥の海の南岸に近い長瀞浜、大畑浜などを通る便があるのだ。ワゴン車であったが、買い物帰りの客で、この日乗ったバスの中ではいちばんにぎわっていた。

亘理町荒浜地区に建つ「わたり温泉鳥の海」(筆者撮影)

しかし、わざわざ別ルートを通っても乗降はなく、全員が浜吉田地区まで乗り通す。海に近い経由地の人口減少が起きているのではないかと心配になる。筆者も、早朝に来たばかりの浜吉田駅西で下車。

阿武隈川を渡ると常磐線の終点である岩沼だ。岩沼市でも路線バスの大半が撤退してしまい、市営バスが代替している。仙台市に近い人口約4万4000人のベッドタウンなのだが、それが今のローカルバスの現状でもある。けれども1日8〜10便を運行する、幹線と呼べる循環線や東西線も走らせており、供給に見合った需要があるのだろう。市の中心部では、かなりの利用客が乗ったバスも見かけた。

以前は、荒浜とは阿武隈川を挟んだ対岸にある寺島地区の南端、新浜までバスが来ていたようだが、ここも2020年10月の路線再編によりデマンド型タクシーに置き換えられた。亘理大橋で亘理町とは結ばれているので、徒歩で市町境越えをしても面白かったのだが、やはり登録制で、いかんともしがたい。

空港にも乗り入れる岩沼市民バス

岩沼駅前でも時刻表をにらんで、南北の順番をひっくり返すことに決め、先に13時23分発の空港線で仙台空港へ向かう。この空港は岩沼市と名取市にまたがる場所にあり、岩沼側からの需要も当然、見込める訳だ。1乗車200円なのは他町と同じだけれど400円の一日乗車券もあり、運転士から買える。ビジネス需要もあるのだろう。山元町や亘理町には回数券はあるが一日券はなく、都会に近づいた感じがした。

JR岩沼駅(筆者撮影)

14時09分発の仙台空港鉄道から、名取乗り継ぎで岩沼に戻る。同鉄道も津波で滑走路下をくぐるトンネルが水没するなど甚大な被害を出し、全線で運転を再開できたのは2011年10月1日。財務状況が震災で悪化し、鉄道施設を宮城県が買い取って「上下分離」も実施、救済している。

この日最後は、岩沼駅前15時29分発の玉浦循環線右回りに乗る。さほど海には近づかず田園地帯を走るだけだが、いちばん南にある停留所、曲戸(まがと)まで乗り、一回りした。かつて新浜まで通じていた路線の名残だ。玉浦とは岩沼市東部の地区名だが、玉浦西は、新浜など海岸沿いの被災した地域の住民が集団移転した新しい町で、2015年7月に町びらきした。先ほどの空港線も経由し、ニュータウンを見ている。

どの地域にも、鉄道に乗っているだけではわからない、被災と復興の現実があった。わずかな客を運ぶだけかもしれないが、地域に密着した市町営バスは、そうしたことも教えてくれる。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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