被災者支える「公営バス」から見た復興の現実 震災10年の津波被災地をたどる・宮城南部編

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朝2便だけの、7時26分発の北部線(浜吉田右回り)が来て、小型バスに無事に乗り込む。次の松並住宅入口バス停が、常磐線の新線移設区間の北端に近い。旧線跡はまだ草むした空き地だが、道路に転用すると思しき工事が進んでいる。7時36分着の牛橋区民会館で下車。運賃は一回200円均一だ。

旧山下駅跡の山元町慰霊施設「大地の塔」(筆者撮影)
内陸に移設して高架化されたJR山下駅(筆者撮影)

こうすると、1日1本だけの中部線(右回り)が7時50分にやってきて、海岸に近いところを走るのだ。破壊された旧山下駅跡に作られた慰霊施設「大地の塔」まで6分だけ世話になる。

沿道の集落は一見、元の場所のまま再建されたように思える。だからこそバスも必要だ。しかし、再び津波が襲ってこないとも限らない、低い土地でもある。こうした心情は、よそ者が軽々しく推し量るべきではないだろう。一方で新しい山下駅の周辺には、かさ上げした土地に移転してきた住民たちのニュータウンができており、町としての成熟も進んでいる。人の思いはそれぞれである。

鳥の海は知られざる観光地?

亘理町も、町営バス「さざんか号」が町内の公共交通機関として、JR亘理駅を中心に路線を広げている。4路線があり1日5〜7本と比較的、運転本数も多い。固定されたルートを利用する、まとまった数の利用客がいると見受けられた。海岸に近づくのは荒浜線と南部循環線の長瀞浜経由なので、この2路線に乗る。

JR亘理駅。町営バス「さざんか号」が発着する(筆者撮影)
亘理町営バス「さざんか号」(筆者撮影)

常磐線で亘理に8時52分に着くと、9時23分に荒浜線が出るので都合がいい。ただ、相変わらずJR駅にはバスの時刻の情報がどこにもない。タクシー会社の電話番号と、最寄りバス停の位置の案内だけは近年、どこでも見かけるようになった。だが、いかにスマートフォンで情報が得られる時代とはいえ、もう一歩進めてバスの時刻表を掲示するところまでは、なかなかいかない。

荒浜線ではマイクロバスがやってきた。ここも1乗車200円だ。途中、亘理町役場に寄るが、その近くに津波到達地を示す、真新しい石碑も見かける。海から5〜6kmは離れている場所で常磐線の線路もすぐそこだ。

荒浜は阿武隈川の河口と「鳥の海」と呼ばれる潟湖に挟まれた、半島のような地形の漁港の町だった。非常に風光明媚な土地柄で、気持ちがいい。名前の通りバードウォッチングの名所と聞いたが、訪問時には筆者にも予備知識がなく、なぜ知られるところが少ないのか不思議だった。今後の観光開発に期待したい。

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