大幅赤字に転落した日本郵船、今11年3月期黒字計画の「真実味」

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 それでは部門別に見ていこう。まずは前期554億円の部門経常赤字と赤字幅が拡大して収益の足を大いに引っ張ったコンテナ船主体の定期船部門。リーマン・ショック後の荷動き低迷を受けて運賃が急落。09年1~3月期から3四半期連続で180億円台の部門経常赤字を計上し続けたほか、4四半期連続で3ケタの部門経常赤字を計上した。だが、各船社が史上初のコンテナ船の係船に踏み切ったことから需給が引き締まって運賃が上昇。今年1~3月期には2ケタまで部門経常赤字が縮小している。

四半期単位の定期船の部門経常利益の推移は以下の通り。                           
 08年4~6月期  ▲27億円 
   同7~9月期  ▲11億円
 同10~12月期  ▲38億円
 09年1~3月期 ▲184億円
   同4~6月期 ▲186億円
   同7~9月期 ▲180億円
 同10~12月期 ▲120億円 
 10年1~3月期  ▲68億円

通期ベースでの定期船の部門経常利益の推移は以下の通り。

               前期比増減
 04年3月期  219億円       −
 05年3月期  450億円  +231億円 
 06年3月期  175億円  ▲275億円
 07年3月期  ▲97億円  ▲272億円
 08年3月期  115億円  +212億円
 09年3月期 ▲259億円  ▲373億円
 10年3月期 ▲554億円  ▲296億円
 11年3月期    5億円  +559億円
 (注)11年3月期は会社計画

今期は、北米航路の輸送量が10%増との想定だ。09年3月期の水準にはなお及ばないが、輸送量をスペース(運搬能力)で割った消席率は前期より5%向上、09年3月期より4%向上する。年1回、5月に9割方を確定する北米の運賃(その後は季節要因による荷動きの変化を勘案して一時的な上積みはあるがベースは1年を通じて不変)は足元89。5月の改定でリーマン・ショック前の08年4~6月期の水準をほぼ回復しそうだ。

  四半期    北米航路輸送量 消席率  運賃
 08年4~6月期 18.7万TEU 84% 100  
   同7~9月期 20.0万TEU 88% 107  
 同10~12月期 18.1万TEU 78% 109
 09年1~3月期 14.5万TEU 72%  91
   同4~6月期 13.0万TEU 70%  79 
   同7~9月期 15.8万TEU 81%  69
 同10~12月期 15.4万TEU 82%  75
 10年1~3月期 14.0万TEU 90%  83

   通期    北米航路輸送量 消席率  運賃
   09年3月期 71.3万TEU 81%   −
   10年3月期 58.2万TEU 80%   −
   11年3月期 64.2万TEU 85%  97
(注)TEUは20フィートのコンテナ1個分に相当。消席率=輸送量/スペース。運賃は08年4~6月期の運賃を100とした指数。11年3月期は会社予想

欧州は輸送量が1%しか伸びない前提で、消席率に至っては8%落ち込む見通し。上期に大型コンテナ船5隻の返船をしてもなお、スペースが49万TEUから54万TEUに増えるからだ。欧州運賃は足元99まで戻っているが、3カ月ごとの改定なので、荷薄な下期に下がる想定。ただ、他の海運大手2社と比べると、この欧州航路のコンテナ船の想定は厳しすぎる印象がある。

 四半期     欧州航路輸送量  消席率  運賃
 08年4~6月期 13.8万TEU  84% 100  
   同7~9月期 15.2万TEU  93%  96   
 同10~12月期 12.7万TEU  82%  89 
 09年1~3月期 10.9万TEU  85%  56
   同4~6月期 10.4万TEU  85%  48
   同7~9月期 12.5万TEU 100%  54
 同10~12月期 12.8万TEU 101%  70  
 10年1~3月期 12.3万TEU 100%  86 

   通期    欧州航路輸送量 消席率  運賃
   09年3月期 52.5万TEU 86%   −
   10年3月期 48.0万TEU 97%   −
   11年3月期 48.3万TEU 89%  91

先述の通り、今期のコンテナ船の部門経常利益は、通期5億円計画。商船三井、川崎汽船とも50億円の黒字化を計画しているのに対して過小ともとれる水準だが、これはコスト削減計画額の違いによるもののようだ。

ただ、コスト削減の主なものはスーパースロースティーミング(超減速航行)による使用燃料量の削減であり、日本郵船と他2社でこれほどの違いが出るとは考えにくい。3社ともかつては24ノットで航行、8000TEUの大型コンテナ船で1日当たり221トンの燃料を消費していたが、前期に減速航行と称し20ノットに減速し128トンまで削減。これをさらに18ノットまで減速し、95トンまで落とす。これは川崎汽船の事例だが、3社とも実態は似たり寄ったり。この点でも日本郵船の今期業績計画には上振れ余地があるのかも知れない。

各社の今期の経常利益計画と、コスト削減計画額は以下の通り。
       
         上期   下期   通期 コスト削減計画額
   日本郵船  5億円  0億円  5億円 150億円
   商船三井 20億円 30億円 50億円 220億円
   川崎汽船 40億円 10億円 50億円 220億円
(注)日本郵船は定期船部門、商船三井と川崎汽船はコンテナ船部門。コスト削減計画学には3社とも修繕費やターミナルチャージの削減額を含む

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