住民税に1000円上乗せ徴収「森林環境税」の違和感 2024年度導入で年間620億円の税収を見込む

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しかしなぜ公的管理下に置く面積が210万haも増えるのだろうか。2017年の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2017)には、「市町村が主体となって実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、個人住民税均等割の枠組みの活用を含め都市・地方を通じて国民に等しく負担を求めることを基本とする森林環境税(仮称)の創設に向けて、地方公共団体の意見も踏まえながら……」とある。

要は公的管理に必要なコストは、国民に税金で負担してもらうと言っているのだ。一方で、林業の成長産業化を進めると大々的に宣言しているのに、言っている事と、やっている事が違わないだろうか。

政策で、林業を「成長産業化」させると謳いながら、その実態は、さらなる林業の国営(公営)化が進んでいるようにも見える。これまでの都道府県にさらに市町村も巻き込んで。内閣府の規制改革のワーキングではわれわれ委員も大反対した。しかし法律は施行された。

ドイツやオーストリアの例

あらたに公的管理下に置く森林の面積210万haは、愛知県4つ分の広さ以上である。日本の山林は急峻で、局所的には公で守らねばならないエリアは存在している。しかしすでに国有林は770万haある。

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さらに「民有林」と区分される中にも、都道府県や市町村が所有する「公有林」が300万ha含まれている。国有林と公有林、そこに210万haをプラスすると、1280万ha。一方で私有林は1430万haから210万ha減るので、1220万haになる。公がテリトリーにする山林の面積が、私有林を上回ることになる。

例えば、ドイツ、オーストリアでも国家レベルは枠組みを提示しているだけで、具体的に林業をどうするかに関わっているのは州(日本の都道府県にあたる)である。そして州有林でさえも、林業自体は民間企業に任せている地域もある。

現在の日本は海外の林業先進国とも逆行する。そもそもドイツでは面積比で国有林(連邦有林)4%、州有林29%に過ぎない。

また森林所有とその公益性の制度について言えば、外国籍の人や組織による林地の取得が広がっている問題がある。言うことを聞かせやすい所からではなく、行政にしかできないことから、それも緊急を要する問題の解決を、前面に出してもらった方が、国民は安心し、信頼するのではなかろうか。

白井 裕子 慶應義塾大学准教授

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しらい ゆうこ / Yuko Sirai

早稲田大学理工学部建築学科卒。稲門建築会賞受賞。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。野村総合研究所研究員、早稲田大学理工学術院客員教授などをつとめる。工学博士。一級建築士。

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