住民税に1000円上乗せ徴収「森林環境税」の違和感 2024年度導入で年間620億円の税収を見込む

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そもそも以前から、同様の名目の地方税も存在しているのだ。新しい国税と同じ「森林環境税」や「水と緑の森づくり税」「森林(もり)づくり県民税」などの名称で徴収されている。これらは早い地域では2003年から徴収されており、2018年現在、37府県1市に広がっている。つまり、かなりの国民が、2024年以降は国と地域から、同じような税を2重に徴収されることになる。

内閣府の会合で、税金の設計を担当している省庁から説明を聞いた。その時、筆者は次のような質問をした。

「木材生産額2000億円に対し、林道、造林の行政投資だけで3000億円。木材生産額より補助金の方が大きい。林業には林道、造林以外にもまだ補助金がある。また、その会合時の最新公表値であった2014年度には治山2000億円、砂防3500億円、河川1兆5000億円という行政投資が行われている。この現状において新たな国税、森林環境税(620億円)は、どういう意味を持つのか」

別のワーキング・グループでは、その場に居合わせた委員も、林業を「成長産業化」すると言っているのに、国民から新たに税金を徴収するとは、いったい何事か、と大反対していた。他の委員も、ことあるごとに苦言を呈した。しかし、こうした声は無視される。ほぼ決まったことしか聞かされないのだ。言えば、ただうるさがられるだけのこと。

いったい何に使われるのか?

最近、林業技術の展示会へ行った時「森林環境譲与税活用事例」というパンフレットが目に止まった。機材やシステムの宣伝で、実態は「森林環境譲与税」をターゲットにしたセールスである。新しい予算で買ってもらうためのPRだ。

ある地方公共団体が、都市部の「森林環境譲与税」を目当てに、自分の村の木材を買ってもらおうと、宣伝に行った町では、「森林環境譲与税の使途は、外部のアドバイザーに外注しているから、セールスはそちらへ行って下さい」と言われたそうだ。

森林環境譲与税の目的の1つは「公的管理下」に置く森林を増やすことである。これまでにも、私有人工林670万haの3分の1にあたる210万haを針広混交林(針葉樹と広葉樹が混じり合った森林)に、つまり天然林化へ導き、「公的管理下」に置く方針で計画され始めた。いわば実質的に生産活動を期待しない山林に戻します、という「成長産業化」からの方向転換である。

新たに公的管理下に置く対象は、森林経営管理法(2019年4月1日施行)の中に、いつの間にか入っていた。この法律では、市町村の仲介で、森林の経営と管理を所有者から取り上げ、民間事業者に林業をさせることができることになっている。これは行政にしかできない仕事であり、この部分は評価できる。森林所有者の中には、自分の森林に関心もなく、どこにあるかも知らず、森林を所有する権利を持ちながら責任を果たさない人がいる。

疑問を感じるのは、その先である。民間で経営や管理ができない森林が210万haあるとして、さらにそれを市町村自らが経営、管理をすることにしたのだ。

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