「民主」に寄りかかって国際政治を図る危うさ G7首脳会談で見えた中国の存在感とG7の黄昏

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サミットは、課税逃れのルール強化のため法人税の最低税率を15%とするのを承認した。これも新自由主義との決別の別表現だ。中国は新自由主義の担い手である巨大IT企業「アリババ」を独禁法違反容疑で締め上げ、同時にデジタル人民元導入を急ぐ。一方、アメリカも同様に、グーグルやアップルなど「GAFA」規制に乗り出した。米中同時に起きた動きは偶然ではない。コロナ禍が世界を覆う中、国家の復権がより鮮明になった証でもある。

「専制」の中国でも「民主」をうたう

本題の民主に移る。民主を構成する理念は、日本では憲法が保障する言論・表現の自由、人権、法の支配など社会生活上極めて大事な諸権利だ。権力者がこれらを踏みにじれば、これを盾に戦う貴重な理念でもある。

しかしこれらの諸権利には、絶対的定義やモノサシはない。「専制」と非難される中国も、憲法や共産党規約で、「民主」をうたい上記の諸権利の保障を定める。民主とは統治(ガバナンス)の到達目標ではない。統治の在り方は、それぞれの国の歴史、習慣と社会制度、言語、宗教など文化的特殊性を色濃く反映する。民主も専制も決して一律ではなく、様々なバリエーションがある。

宗教的規律や理念が「民主的諸権利」に勝る国は多い。「民主の総本山」のように見られるアメリカも「神か悪魔か」の一神教的二元論が、思考方法の根底にあると思う。「民主か専制か」の対抗軸もその亜種であろう。

だが「民主」という言葉が、欧米では絶対善と正義の代名詞になっているからこそ、人権外交は政治的宣伝効果を発揮できる。バイデン政権登場以来、東アジアでは米中対立のホットスポットとして台湾が浮上し、メディアは「台湾有事」切迫という危機感を煽っている。「専制」中国の圧力にさらされる台湾を「民主」の代表として贔屓したばかりに、「贔屓の引き倒し」になった例を挙げよう。

台湾がコロナ感染を抑え込み「優等生」と言われた2020年5月、朝日新聞は社説で、中国政府が人々の行動の自由を奪い、言論統制しながら強制的な都市封鎖をしたのに対し、台湾は丁寧な「記者会見やITの駆使により、政策の全体像、目的を社会全体で共有するよう努めた」と対照的に紹介。「こうした民主的な手法が市民の自立的な行動につながった」と書き、民主こそコロナ抑制の理由と絶賛した(「コロナと台湾 民主の成功に学びたい」2020年5月25日)。

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