「民主」に寄りかかって国際政治を図る危うさ G7首脳会談で見えた中国の存在感とG7の黄昏
「外交」に関する90分の討議(6月12日)では激論となり、盗聴を警戒してすべての電話線とWi-Fiを切断して論戦が展開された(「G-7 leaders fighting on 2 fronts There's no escaping Brexit and Beijing in
Britain」POLITICO、2021年6月12日)。当初は中国名指し批判に消極的だったイギリスのジョンソン首相も、閉幕間際にようやく日米強硬論に与したほどだった。
さて菅義偉首相のポジションはどうだったか。菅首相の主要な関心は、東京五輪への支持の取り付けと、それを武器に政権浮揚を図ることにあったと思う。対中問題で首脳対立が表面化すると、菅首相はドイツのメルケル首相らと個別会談し説得工作に当たった。日本外交筋は「日米が役割分担した」と述べており、菅首相はバイデン氏の「お使い役」を果たしたのだろう。
対中政策で溝を深めた日米と欧州
対中政策については、日米と独仏など欧州勢との溝は埋まったわけではない。今回のサミットを「対中同盟」にしようとするバイデンの思惑は「道半ば」に終わった。身内の民主党からも、大統領選で指名を争った左派のサンダース上院議員が、バイデンの対中政策を批判し「民主主義が勝とうとするなら、権威主義より実際により良い生活の質を人々に提供できることを実証しなければならない」と、中国との直接対話の必要を強調した(「Bernie Sanders「Washington’s Dangerous New Consensus on China Don’t Start Another Cold War」Foreign Affairs、2021年6月17日)。
サミットは、イギリス南西部の保養地コーンウォールで行われた。そこでこのサミットを、新自由主義経済を世界に広める「ワシントン・コンセンサス」から決別し、経済への国家関与を強化するパラダイム転換を意味する「コーンウォール・コンセンサス」と分析する報道もある(ジリアン・テット「FINANCIAL TIMES G7提言 思想の変化映す」日本経済新聞、2021年6月16日)。
バイデンは「アメリカ救済計画」「アメリカ雇用計画」などとして、国内総生産(GDP)の約3割に相当する6兆ドル(約650兆円)もの資金を注入し、コロナ対策からインフラ整備、脱炭素化や製造業の振興まで、国家が経済に介入し、牽引する「国家資本主義」への転身政策を提起している。
世界の所得分配や格差に詳しい経済学者のブランコ・ミラノビッチ氏は、社会主義の看板を掲げながら事実上の「国家資本主義」によって成長を遂げた中国と、アメリカを並べ、「二つの資本主義」が世界を覆っているとみる(「(インタビュー)二つの資本主義の行方 経済学者、ブランコ・ミラノビッチさん」朝日新聞2021年6月18日)。日米欧の資本主義を「リベラル資本主義」と名付ける彼は、「固定化された超富裕層の出現と格差の拡大が、(リベラル資本主義の)の長期的存在を揺るがす脅威になっている」とし、その是正に失敗すればリベラル資本主義は、中国型の「政治資本主義」に近づくとみる。
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