「民主」に寄りかかって国際政治を図る危うさ G7首脳会談で見えた中国の存在感とG7の黄昏

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それから1年、2021年5月に台湾で感染が広がり、当局は学校をすべて閉鎖、5人以上の集まりを禁止し娯楽施設の休業を命じる「都市封鎖」に追い込まれた。「民主」に成功の理由を求めた社説の論理は、事実によって裏切られた。感染症対策を、科学的視点からではなくイデオロギーの違いに求め、「民主」という魔力を持つ言葉に寄りかかった錯誤だ。

もう1つ例を挙げる。元陸上自衛隊幹部 は「南西の島々どう守るか」と題する朝日新聞のインタビュー記事(2021年6月11日)で、台湾を「日本と同じ自由と民主主義、法の支配のもとで生活しており、台湾の有事は我がことと考えざるを得ません」と述べ、「台湾有事は日本有事」とする理由として「民主」を挙げた。これと同様の論理は、多くの台湾研究者が共有している。

日本の本当の役割は米中対立の緩和だ

では台湾が、国民党独裁時代に日本が「中華民国」を承認し支援した理由は何だったのか。台湾がもし今も「専制」下にあれば支援しないのだろうか。日米両国にとって台湾は、中国を抑え込むカードとして地政学的に重要なのであり、それは昔も今も変わりない。ここでの「民主」とは、「価値観外交」を展開するため、実態に乏しい「お飾り」(アクセサリー)という意味を超えない。

筆者 は2021年5月の東洋経済オンラインへの寄稿で、中国が台湾に武力行使しない3つの理由を挙げた(「中国が台湾に武力行使をしない3つの理由」)。台湾有事を煽ってきたバイデン政権だが、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は6月17日の上院公聴会で、「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」と述べ、「近い将来(武力統一が)起きる可能性は低い」と証言した(「米制服組トップ、中国の台湾武力統一『まだ道のり長い』朝日新聞2021年6月18日」。台湾有事を煽るメディアや識者は責任を免れない。

先に引用したミラノビッチは「民主vs専制」の対抗軸について「価値観を巡る対立は本質ではない。(米ソ冷戦は)まさにイデオロギーを巡る闘争でした。しかし、中国は強国になりたいだけです。米中の本質的価値観は同じ」とみる。

彼は、米中対立は日本とヨーロッパの利益にならないとし、「『中国が強大で対抗同盟が必要』という主張を誰もが掲げると、中国はかえって自らの力を過信してしまう」と分析し、日欧が米中対立を緩和する役割を果たせと説く。同感だ。ドイツやインドが、中国叩きに安易に同調しないのは、多極化が進む世界で、自律性を維持しようとする「リスクヘッジ」(危険回避)に他ならない。今回のサミットから日本が学ぶべき最大のポイントだと思う。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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