東京東部「荒川大氾濫」への備えはできているのか 最悪シナリオへの広域避難にはいまだメドつかず

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荒川(写真左の右)と隅田川(同左)の分岐点にある平常時の岩淵水門。左側は北区、右側は川口市。右写真は台風19号で増水した荒川。同じ場所とは思えないほどだ(提供:国土交通省荒川下流河川事務所)

6月〜10月は、「出水期」と呼ばれる。梅雨に入り、大雨による川の堤防の決壊・越水、洪水に警戒するべき期間のこと。秋には台風が来る頻度も高まる。2019年10月の台風19号は関東地方に大きな被害をもたらし、東京都や江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川区)などの行政は、大規模水害時の備えについて再考を迫られた。なかでも最悪の事態に必要となる「広域避難」については、いまだ「検討中」だ。

荒川・岩淵水門では戦後3番目の高水位を記録

2019年の台風19号は、10月12日19時前に大型で強い勢力(中心気圧は955ヘクトパスカル)で伊豆半島に上陸した後、関東地方を通り、広い範囲に大雨や暴風をもたらした。死者90人、住宅は全半壊が4000棟、浸水が7万棟をそれぞれ超える甚大な被害が生じた。

最も目立ったのは洪水による被害で、関東・東北地方を中心に計140カ所で堤防が決壊、河川が氾濫し、国が管理する河川だけでも浸水地域の面積は約2万5000ヘクタールに及んだ。

荒川水系では、上流域で国が管理する2河川計3か所で堤防が決壊し、下流域の様相は一変した。

荒川下流域の中心は、洪水対応の抜本策として作られた荒川放水路。明治43(1910)年8月の大洪水の翌1911年から開削工事が始まり、昭和5(1930)年に全長22kmが完成した。1965年からは、荒川放水路は荒川へ、岩淵水門から千住大橋は荒川から隅田川へと呼称が変わった。

その荒川の、隅田川への分岐点にあるのが、岩淵水門。川の中に立つ鉄柱からは矢印が突き出ており、荒川の水位の観測が始まって以来、水位が高かった時を示している。それによると、2019年の台風19号は、戦後3番目の水位を記録した。

左側の上から3つ目の矢印が台風19号時の最高水位(撮影:河野博子)

荒川水系の水位は、いわゆる標高とは異なるA.P.という水準で示される。2019年10月13日午前9時50分にA.P.7.17mというのが、台風19号の最高水位だった。国土交通省と気象庁は様々な種類の「洪水予報」を出す。荒川水系では、A.P.7.70mになると「氾濫危険情報」を出すことになっているが、そこまであと53cmだった。

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