東京東部「荒川大氾濫」への備えはできているのか 最悪シナリオへの広域避難にはいまだメドつかず

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「これ、たまたまなんです。自然が助けてくれた。潮が逆だったら、もう雨は降っていないのに、河川だけ水位がぐーっと上がっていくことになりかねなかったですね」と、山口部長は振り返る。

台風19号を振り返る江戸川区危機管理部長の山口正幸さん(撮影:河野博子)

東京・江東5区が恐れる最悪のシナリオ

満潮、干潮は、海面水位が約半日の周期で上下に変化する現象で、月が地球に及ぼす引力と、地球の自転により生じる遠心力により起きる。

高潮は、台風が海の上空を通る時に海水面が大きく上昇する現象だ。主に「上空の低い気圧による吸い上げ効果」と「強風による吹き寄せ効果」による。気象庁は「台風や低気圧の中心では気圧が周辺より低いため、気圧の高い周辺の空気は海水を押し下げ、中心付近の空気が海水を吸い上げるように作用する結果、海面が上昇する」と説明している。台風19号で東京湾の高潮は起きなかった。

戦後の高度経済成長時代、東京の東部では、工業用水確保のための地下水汲み上げや天然ガス採取により地盤沈下が起きた。このため、地盤が低い。特に江東5区は、台風高潮と満潮時が重なるという最悪のシナリオを念頭に、広域避難の必要性を訴えてきた。

2018年8月、江東5区は大規模水害ハザードマップを作成して公表した。国土交通省が出している最大規模の浸水想定区域図と、東京都が公表している高潮の最大想定の浸水想定図をベースにしている。最悪の場合には、浸水して2週間も水が引かない地域に住むのは約250万人とはじき出し、大規模水害に見舞われる72時間前に遠くへの避難を呼びかける方針を打ち出した。

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