少子化問題に決定的に欠けている「少母化」視点 30年前も今も有配偶女性の約8割は子持ちだ

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乱暴に言えば、単に出生率を上げたいのであれば、「子ども産んだらいくら」という全方位的支援策より、「20代で結婚し、かつ20代で子どもを産んだらいくら」という若者限定支援政策のほうが奏功するかもしれません。

しかし、これは実現不可能でしょう。個人的にはそもそも出産を金額換算するような政策がいいとは思えませんし、国家的見合い婚のような強制結婚が許されるわけもありません。

かつて1980年代に女性たちは「25歳を過ぎたら売れ残り」「クリスマスケーキ」と揶揄され、「女性は20代のうちに結婚するべし」という負の結婚規が蔓延した時代がありましたが、果たして、今の女性たちはそれを再び望むのでしょうか?

今の若者に足りないのは安心

結婚した人、しなかった人、したくても結婚できなかった人。いろいろな人生があります。が、そのどれが正しくて、どれが間違いということはありません。全体の出生数が減少しているとはいえ、結婚して子を産む母親は以前と変わらず子を産んでいます。

一方で増える離婚の中で、ひとり親による子どもの貧困や十分な教育を受けられないという事態も拡大しています。「子育て支援」は出生数をあげるためだけではなく、そうした今生きている子どもたちを救うことにも活用すべきではないでしょうか。

残念ながら少子化は解消されません。机上の空論で、今この世にいない子どもの数遊びをするより、すでにこの世に生きる子どもたちの幸せの数を増やしていくという方向に舵を切るべきときにきていると思います。親だけではなく、未婚も子無し夫婦も高齢者も含めて、子どもたちを社会が支えていく視点が求められるのではないでしょうか。

そもそも「お金がないから結婚できない」とか「子育てには金がかかる」とか結婚・出産にまつわる話は金の話ばかりです。こういう情報は無意識に若者の脳内を侵食し、「結婚も出産もお金のことばかりでもう無理だ」という考え方を形成させてしまっています。

今の若者に足りないのは安心です。結婚したらいくら、出産したらいくら、というような一種の成果報酬的なインセンティブの考え方ではなく、「結婚しても出産してもお金の心配はいらない」という安心を与える制度設計のほうが、結果自発的な行動につながり、結婚の増加に結び付くのではないかと思います。

「本当は結婚したい。子どもが欲しい」と思っている若者たちには、少なくともお金を理由にその実現を諦めてしまわないように。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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