株は「金融緩和縮小の開始」で下落に転じるのか? 「イマイチ」の日本株の先行きはどうなるのか

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なお、筆者は、コロナ禍後の回復局面において広範囲にビジネスの淘汰が起きるなど、労働市場の需給のミスマッチ拡大が強まるので、労働需要が急速に伸びるのは難しいと見ている。このため、2022年半ばまでは拡張的な財政政策の後押しで、アメリカ経済の高成長が続くと予想しているが、労働市場の回復は緩やかにとどまると引き続き考えている。

ところで、最近のFRBの要人発言を見てみると、テーパリング(金融緩和縮小)に関して5月の初旬までは「議論する段階ではない」といったコメントが目立っていた。ただ、タカ派のメンバーに加えて、5月末からFOMC(米連邦公開市場委員会)の中心メンバーであるリチャード・クラリダ副議長が、FOMCでのテーパリングの議論開始の必要性について言及した。

これらの発言は、コロナリスク低下によって経済成長率が上向くなかで、今後の経済、インフレ動向次第だが、FRBがテーパリングの議論を年央のいずれかに開始することを意味する。4月のCPI(消費者物価指数)が大きく上振れたのは一部品目の価格上昇でほぼ説明できるが、一方でFRBが懸念していた「デフレリスク」が大きく後退したことを示す。デフレ回避のための強力な金融緩和をどの程度続けるべきかをテーマに、今後FOMCの議論が行われるとみられる。

なぜテーパリング開始を急がないのか

コロナ禍からの経済復調局面における、局所的とはいえインフレ率の大幅な上昇、財セクターにおける供給制約の強まり、原材料価格の上昇、などがそろって起きているのは、1990年代後半以降で初めての現象と言えるだろう。

現在のインフレの動きが、今後の「持続的なインフレ加速」をもたらすとの見方が、FRBの中でも増え始めている可能性がある。FRBのオピニオンリーダーの1人と目される、ジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁が6月1日に「労働市場が非常に逼迫している」と発言したことは注目に値する。

ただ、現在のアメリカでのインフレ上昇は、コロナ後の財部門に特化した経済回復という「特殊な経済環境」故に起きていると筆者は考えている。このため、FRBの中で、インフレに対して警戒的な見方がこれから増える可能性はあるが、インフレ率の短期的な上振れを容認しながら、趨勢的な2%インフレの上昇経路への早期回帰を目指すFRBの基本方針は揺るがないだろう。

以上をふまえると、コロナリスク低下と経済成長加速そして労働市場の回復継続を確認して、7~9月中にはテーパリング議論を開始するとみられる。そのうえで、量的緩和縮小を始める市場とのコミュニケーションを慎重に進めるだろう。FRBはテーパリング開始を急ぐ可能性は低く、時間をかけてテーパリングに着手するだろう。このため、テーパリング開始は、早くても2022年1~3月と筆者は現時点で予想している。

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