はびこる不誠実対応「学校での事故」の悲痛な実態 「真実を知りたい」と願う当事者たちの闘い
全国の学校で事故や事件が相次いだことから、文部科学省は「学校事故対応に関する指針」を2016年に示している。指針の発表以降、死亡事故が起きた際、外部の識者ら第三者委員が調査するなどの詳細調査が行われた事案は9件(今年6月4日時点)。同じ期間、同省が把握した死亡事故は113件を数える。詳細調査の実施は、死亡事故の1割にも満たない。
学校で事故が起きた際、保護者らは「その後」も含めてどう対応すればいいのか。学校での事故問題に詳しい八尋光秀弁護士(66)=福岡県弁護士会=に聞いた。
――事故が起きると、障害の度合いに応じて、日本スポーツ振興センターから障害見舞金が支給されます。その実態をどう見ていますか。
硬直した判断に終始している。河村さんのケースでいうと、あの事故保険制度は、もともと障害のある子が普通学校で教育を受けられない時代の法律で作られたもの。障害者の学校事故を想定していなかった。障害のある子は、学校教育から排除したシステムのままで今も処理されている。
名古屋市のトーチ演舞(前回参照)については、精神的疾患が介在していることが重要なポイントになる。損害賠償請求に共通する考え方だ。
例えば、交通事故で後遺症を負い、それを苦にして自殺したとき、法的には後遺症と精神疾患に相当な関係があるかがポイントになる。うつが出た、生きる気力を失った、そして自死したなどとなると、法的な因果関係を認める。
それなのに(因果関係を認めない)あのような判断では、スポーツ振興センターに法的なアドバイザーが入っているとは思えない。(個別の事案をきちんと)調査していないんじゃないか。
――いじめによる自殺に比べ、学校の事故に関しては第三者委員会を設けて事故原因を調査することが少ないように感じます。
検証をやっていない。とんでもないことだと思う。命を奪われているわけだから「検証しなくていい」はない。警察も入らないのであれば、何もわからない。警察が入っても起訴しなければ、情報が入らない。
事故死と自死が、毎年300人とか500人に上っている。学校に関連してこんなに亡くなっている。みんな、学校がそんなに危険なところだと思っていない。交通事故死よりも多いというのは、どういうことなのか。学校が最も危険な場所になっているという意識が足りないんじゃないか。
いじめで自殺した子どもが出た場合、いじめかどうかを検証するが、学校の事故でも専用の事務局を据え、専門的な情報をそろえ、統計も類似事例も用意できるように、もっとしっかりとした体制を組まないといけない。
弁護士や医師、法医学者とか、専門職や専門知識が準備されて集中した討議ができ、会議の都度まとめていくシステムでないと時間ばかりかかる。原因究明に時間がかかれば、その間に同じ事故が続き、同じ構造の事故を繰り返される。
1つの実害の前にヒヤリハットが山ほどある
――学校事故で学校側に求められることとは?
原因究明と検証、検証から得られた成果をもって改善し、再発を防止していく。このシステムがない。国の不作為だ。子どもの命が奪われ続けているのに無策を続けている。同じ事故が山ほど出ている。教育の現場で子どもの命の情報が共有されていない。
学校の対応を批判すると、「そんなこと言うやつがおかしい」とバッシングを受けることがあるが、クラブ(部活動)の指導死も、後遺症を負った子どもも山ほどいる。なのに、クラブ活動とはそんなものだとか、厳しくしなきゃとか、無邪気に信じている人がいる。情報が提供されていない、何人傷つき、何人死んでいるか、知らされていない。
そうした情報は少なくとも教師が共有し、生徒に正確に伝えないとダメです。権利主体の生徒に知らせていない。事故は、1つの実害の前にヒヤリハットが山ほどある。ヒヤリハットで止めないといけない。ヒヤリハットが年間どれだけあったかを見いだし、検証することによって、回避できる。すべての危険情報を集約して、整理して、かみ砕いて返す部署が必要だ。「残念なことに、こういう実害が出た」と具体的に正確に伝える。
安全であるべきということと、安全だということをはき違えて、「安全であるべきだから安全です」と言うのは、落とし穴を掘るようなもの。子どもたちは自分を守れません。保護者も学校にいる子を守れない。
取材:林 和(はやし・なごみ)=フロントラインプレス(FrontlinePress)所属
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