ペンタゴンのホームページに一般向けのOWS解説記事がある 。これを読むと、普通にワクチンを開発→治験(1次から3次まで)→生産→配布→接種という正規の手続きを踏むと、いかなアメリカといえども73カ月(つまり6年以上)かかるという想定であった。
大胆に「見切り発車」を許したアメリカ
それを14カ月に短縮し、「安全で効果的なワクチン3億回分を2021年1月1日までに供給する」ことをミッション(使命)に定めた。具体的には、以下のような工夫が盛り込まれている。
「複数のプロジェクトを並行させ、有望なものは開発途中から治験を開始する」「事前に3万人のボランティアを集めて、早期承認のためのデータを収集する」「治験の最中から生産に踏み切る」「ワクチンが完成する前から、配布と接種の準備を始める」
特に製品ができる前から生産に踏み切る、というのは文字通りの「見切り発車」である。後で「ダメでした」となるかもしれず、その場合は投入した予算が無駄になる。とはいえ、アメリカの総人口は3億3000万人。たとえワクチンが完成しても、それだけの数量を用意できなかったら意味がない。事態はまさに「ワープスピード」を必要としていたのである。
そこで開発しながら治験をし、治験をしながら生産し、その間に配布から接種の計画を立てておく。そうでないと間に合わないから。いやもう「後手後手」批判が絶えない日本政府とはえらい違いである。もっともこれと同じようなことを日本でやろうとしたら、官僚は「法律にありません」と首を振り、野党は「失敗したら誰が責任を取るんだ!」といきり立ち、マスコミは「税金の無駄は許されない!」などとのたまうことだろう。
今から振り返ってみると、ワクチン開発の「キモ」は同時に多くの種を蒔くことにあった。OWSは「官民連携パートナーシップ」(PPP)なので、投入された資金は110億ドル(約1.2兆円)とけっして巨額ではない。その資金を受け取った医薬会社は8グループである。
そのなかからアメリカのジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナと英国のアストラゼネカの3社がワクチン開発に成功した。もし各社が自由に競争していたら、二重投資が起きたりしてさぞかし効率が悪かったことだろう。それぞれが違うアイデアに全力投球したおかげで、複数のワクチンという果実が得られた意義は大きい。
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