日本には台湾関係法のように、平時から台湾と直接的に軍事協力を行う法律的根拠はないが、たとえば台湾有事の際に同時に在日米軍基地や南西諸島という日本の国土が攻撃されれば、日本は自衛権を発動し自衛隊を動員することになる。よって、日本はまず日米安保条約の運用、もしくは南西諸島防衛という文脈から、平時から台湾とも情報交換などの協力を行っていく必要がある。
また、台湾有事の日本の対応の選定には、言うまでもなく日本の世論が重要になるため、平時からさまざまなシナリオへの国民理解を醸成していく必要がある。軍事面以外でも、主権国家ではなく経済地域としても加入できる多国間貿易協定への台湾の加入をサポートするなど、戦略的に国際社会を巻き込む努力が必要だ。
一方、こうした台湾有事をめぐる日本の準備や議論の主たる目的は対中抑止であり、最終的には中国がそれをどう受け止め認識するかが重要だということを忘れてはならない。そこで注意すべきは、日本の台湾統治の歴史から中国政府・国民が日本の意図を誤認識する危険性、またはそれを政治利用する危険性である。
中国にとって、中国「百年来の屈辱 (century of humiliation)」の時代に台湾を統治していた日本が台湾の防衛に関わることは歴史的・政治的に重大な意味を持ち、従来から中国政府は台湾防衛における日本の役割が拡大することを非常に警戒し、アメリカ以上に猛反発してきた。
日米間での焦燥感や不信感が生まれるリスクも
もし日米が共同で台湾との協力を深めても、中国が日本だけをターゲットに批判キャンペーンを繰り広げ、さらには経済的な報復を行うなど、地経学的な争いに発展する可能性は高い。その場合、経済界を中心に日本の世論は動揺し、分断され、結果として日米間の足並みが崩れ、日米間での焦燥感や不信感が生まれるリスクも考慮する必要がある。
また台湾有事に向けた準備や協力に関して戦略的な発信の努力を怠れば、逆に習近平政権が台湾への強硬政策に乗り出す国内政治上の口実を与えてしまう危険性もある。日本政府は台湾海峡の平和と安定が日本国民の生命と財産を守るうえで重要であること、台湾海峡での一方的な現状変更を支持しないことを繰り返し発信し、この原則の下に日本の対応を説明していく必要があるだろう。
(寺岡 亜由美/プリンストン大学 国際公共政策大学院安全保障学博士候補生)
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