台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を

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1979年、アメリカは台湾の中華民国政府と同盟関係を解消したが、国内法の台湾関係法によって台湾防衛に寄与し続けることを約束した。一方で、中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と認めた限り、アメリカは台湾の法的な独立(De jure independence)を能動的に支持しない立場をとった。

アメリカが軍事的に介入する可能性を残すことで中国の台湾侵攻を抑止し、アメリカが介入しない可能性を残すことで台湾の冒険的な行為も抑止するという「二重の抑止(Dual deterrence)」を確立し、台湾海峡における一方的な現状変更を防ごうとしてきたのである。

この戦略的曖昧性政策の是非は、冷戦終結後ソ連が崩壊し、米中関係が見直されるたびに議論されてきた。2000年2月には、両岸問題は「平和的」かつ「台湾の人々の同意のもとに(with the assent of the people of Taiwan)」解決されなければいけないとクリントン大統領が発言したが、これは台湾の民主化という大きな変化を汲み取ったうえでの政策の更新であった。

「戦略的明瞭性」よりも

最近では昨年9月にアメリカ・外交問題評議会会長リチャード・ハース氏等の記事を発端に、本政策の見直し議論が活発化している。香港での一連の動向や人民解放軍による台湾海峡での威嚇行為などから「当事者間での平和的解決」への悲観的観測が広がっていること、戦略的曖昧性政策の基盤であったアメリカの圧倒的な軍事的優位性が揺らいでいることを受け、アメリカは中国が台湾侵攻を行えば介入すると明言し対中抑止を強化すべきという意見が提示されたのだ。

こうした「戦略的明瞭性」政策への転換を求める声に対し、アメリカの国家安全保障会議・インド太平洋調整官カート・キャンベル氏は先月上旬、「戦略的明瞭性」よりも、外交や防衛技術革新、アメリカの軍事力を背景にして、中国政府に一貫したシグナルを送ることこそが台湾海峡の平和と安定に最も効果的な方法だと継続性を訴えた。

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