「アート」が行き詰まった社会の変革に必要な訳 国谷裕子×箭内道彦、東京藝大の秘密に迫る

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箭内:世の中から見ると浮世離れというか、ちょっとわからないことをやっている人たちっていうレッテルを貼られがちですけど、今の時代、いろんなことが立ち行かなくなってきて、その中で考え抜いて手を動かし続けている。

アートっていうのは何か額に入れて飾っておくだけのものじゃなくて、世の中が変わっていく、良くなっていくことのヒントがすごく変なところに入っているかもしれない。で、それが真ん中で議論をしている人たちには発想できないものだったりする。社会とアートをつなげることの重要性って、そこにある気がするんですよ。この数百年の中でアートというものが今の時代に特に必要であることは歴然としているわけです。

対立し合う勢力にアートで第3の答えを探れる

僕がよく言うのは、例えば2つの勢力が対立していて、町内会でもいいですけど、町内の壁の色を塗り替える時に、「赤くしたい」という勢力と「黄色くしたい」という勢力があって、多数決で赤になるか黄色になるか、もしくは仲良く赤と黄色を混ぜて、ちょうど間のオレンジ色に塗っておきましょうとなるんだけど、そうではなくて、第3の答え、アートの答えだと、「赤でも黄色でもなくて青のほうがいいかもしれない」と言ったり、もしくは「この壁とっちゃったほうがいいかもしれない」と言えたり、「壁をはがして違うものを作りませんか」と言えたりする。それがアートだと思うんです。

『クローズアップ藝大』(河出書房新社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

アートはこの行き詰まった社会を変えていく大事な鍵になるはずです。アートを作っている側の人たちは、「俺はそんなこと考えてないよ」って言うかもしれないけど、そこを社会とつなげる役割を果たすのが大事かなと思います。

国谷:私は気候危機など地球の持続可能性について取材や啓発活動をやっていますが、箭内さんがおっしゃったように社会が今後立ち行かなくなるのではとの不安が高まり、一方で分断やギスギスした世界的な対立も起きています。

日本社会においても、自分が心地よい人たちとだけ付き合うような感じがどんどん強まっている。そうなると、本当に大事な課題の解決ができなくなるんじゃないかと危惧しています。しかし、アートは、そういう中にあっても心をやわらかくしたり、人と人とをつなげていく力を持っていると思います。

(第2回に続く=6月13日配信予定)

国谷 裕子 キャスター

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くにや ひろこ / Hiroko Kuniya

ニュースキャスター。米国ブラウン大学卒業。1993年4月から2016年3月まで23年間にわたり、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務める。2011年、日本記者クラブ賞受賞。

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箭内 道彦 東京藝術大学 美術学部デザイン科教授

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やない みちひこ / Michihiko Yanai

1964年生まれ。福島県郡山市出身。90年に東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業、博報堂に入社。2003年に独立し「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、資生堂「uno」、サントリー「ほろよい」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。10年にロックバンド「猪苗代湖ズ」を結成。15年には福島県クリエイティブディレクターに着任、監督映画『ブラフマン』公開、「渋谷のラジオ」を設立。16年より現職。著書に『871569』(講談社)、『広告ロックンローラーズ』(宣伝会議)など。

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