「アート」が行き詰まった社会の変革に必要な訳 国谷裕子×箭内道彦、東京藝大の秘密に迫る

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箭内:今、国谷さんにおっしゃっていただいたように、その「あこがれの」っていう部分がなくなってきているんです。

国谷:アメリカのスタンフォード大学ではアートの分野、デザインの分野は、大学の競争力の源泉になっています。藝大は日本の伝統文化の守り手、そういうところから、非常に革新的なアートマネジメントやインスタレーション、映像もアニメーションまでフルセットで持っています。しかも人材がそろっています。

箭内:「クローズアップ藝大」では単純に過去から現在までの自分の話をするだけじゃなくて、国谷さんからのド直球だったり変化球だったり、するどい突っ込みによって、もう50代60代になっている先生方だけど、何か新しい発見だったり、自分の考えが初めて言葉になったりするわけです。栄光をただ語っていただくんじゃなくて。

「クローズアップ現代」に呼ばれて出演した人みんなそうだと思いますが、国谷さんと会う、国谷さんと話すというのはとても楽しいんだけど、自分が今まで経験した知識をただ披露するだけじゃ帰さないぞっていう空気があるんです。

国谷さんと話すことによって、新しく自分の中に湧いてくるアイデアであったり提案であったりを得られる番組だった。あの番組を、よく、23年間もやってた人がいたもんだなって思うんです。それが、名前が「藝大」と「現代」でちょっと掛詞になっているだけじゃなくて、ああいうボールを藝大のあちこちに投げてほしいなって思った。

秘境の暗闇の扉を開ける

国谷:皆さん、言葉をお持ちです。作品や演奏に至るまでの思索というか、プロセスの中で「言葉」と向き合っていらっしゃる。ジャーナリスティックな部分も多いとの印象です。作品を自分の中で作り出すまでに、たくさんの人にインタビューしたり、イメージを刺激する場所に行ったり。何をテーマにしたらいいか、そのアンテナが極めて先進的です。

小沢剛先生(美術学部先端芸術表現科教授)をインタビューさせていただいた時に、小沢さんはかなり前に、チベットの山の上でプラスチックボトルが転がっているのを見て、それを大量に集めて絨毯を作った。今のプラスチック問題が起きるずっと前に、そのことに気が付いてメッセージを発信しようとしていた。社会はまだ気が付かないうちにです。それで先生にその絨毯はどこにいったんですか? って聞いたら、どこにいったかわからない(笑)。

山村浩二先生(大学院映像研究科アニメーション専攻教授)はひたすら1人で、コンピューターもほとんど使わず、手描きをされています。インタビューで忘れられないのは、子どもの頃に宇宙の果てはどこにあるんだろうと考えたことをいまだに思いながら、どうしてこの世界は生まれたのか、どうして僕たちはここにいるのか、それを知りたいと思ってアニメーションに向き合っているとおっしゃっていたことです。創造する中で何か根源的なことを知りうることがあるのではないかと。宇宙と対話しながら制作しているとおっしゃいました。

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