コロナ優等生の台湾でなぜ感染が広がったのか 防疫網に穴、これまでの政策が役立たない?

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院内感染が起きたのは亜東医院だけではない。他の病院でも院内感染が確認され、市中感染に至っては燎原の火のような広がりを見せている。「長い感染症との戦いの中、市民には疲れも出ている。私達が気を緩めた時に、新型コロナウイルスは進化して入り込んできた」。亜東医院のケースは病院側の気の緩みとは言えないが、公衆衛生の専門家で前副総統の陳建仁氏ははっきりと「進化したウイルス」が台湾に入り各地で感染を広げているとし「防疫の主軸を変えなければならない」という認識を示した。

クラスターの恐怖を、身をもって体験した亜東医院の邱副院長は、政府から民間まですべての人が感染対策を全面的に変えなければならないと実感している。「従来の対策では未来はない」と邱副院長は話す。政策だけでなく市民の生活でも常に最新の対策を行い、かつ対策をその都度見直し、改善していくことが必要だ。

医療リソースも限界に近い

中央感染症指揮センターの諮問委員会のメンバーで台湾大学附属児童病院・感染科の李秉穎医師によると、感染拡大のピークは7〜14日の間ではあるが、14日目を起点とした2週間も抑え込みの重要な期間になるのだという。李医師は、台湾で今すぐ1日あたりの感染者が1000人を超え、医療崩壊状態に陥ることはないという見解を示しつつも「感染を抑え込むには、より積極的に行動する必要がある」とする。

今すぐ医療崩壊することはないと言っても、1日あたりの感染者が3桁になることが常態化しつつある今、医療リソースの消耗が大きくなることが予想される。台湾では1人の新型コロナ重症者を治療するのに、治療費と人件費を合わせると約210万台湾ドル(約816万円)、軽症者や無症状者でも平均で約80万台湾ドル(約312万円)かかるという。

台湾において新型コロナウイルス感染者の治療費は政府負担、つまり元を辿れば税金だ。数字を見れば医療リソースには限界があることがよくわかるだろう。今、市民がすべきなのは医療従事者をヒーロー扱いすることではなく、自身が台湾を救うヒーローになることだ。つまり、新北巿立土城長庚医院の黃璟隆院長が言うように「1人ひとりの協力があって初めて、問題解決に向かって進むことができる」ということなのだ。

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