5月17日、台北市近郊・新北市板橋区の亜東医院で、9人の新型コロナウイルスの感染が確認された。院内感染だ。院内感染と聞いて、台湾人が思い出すのはSARS流行時に起きた和平医院の封鎖事件である。当時、同医院で院内感染が広がったことから、行政院(内閣に相当)は事前告知なく病院を封鎖。医療従事者、患者、その家族などその場に居合わせた人が一瞬で強制隔離されたという恐怖の記憶だ。
亜東医院の副院長である邱冠明氏は、院内感染の一部始終について「始まりは1週間前だった」と話す。邱副院長は感情を押し殺すように「でも、私たちも1日中、来院する患者の話を疑うことはできなかった」という。
5月10日、ある80代の男性患者が亜東医院に診察にやってきた。仮に彼をAとする。Aは長年の喫煙から喘息の持病があり、彼が病院にかかるのはごく自然なことだった。台湾の医療機関では診察の前に、患者は「TOCC」の告知をしなければならない。
TOCCとは、病院側が新型コロナウイルス感染者をいち早く発見するために確認すべき項目だ。Tは「渡航歴(Travel history)」、Oは「職業(Occupation)」、1つ目のCは「接触歴(Contact history)」、2つ目のCは「人混みに行ったかどうか(Cluster)」を指す。その咳症状がある患者Aからは2つのCについての告知はなかった。
台北市内の「茶芸館」のクラスター
5月12日、台北市の万華区にある、「茶芸館」と呼ばれる接待を伴う飲食店でクラスターが発生した。そして14日、新規感染者のうち16例がこの茶芸館と関係があることがわかったという。そこで亜東医院では念の為に「万華区から来院した患者」の調査を始めたところ、例の咳症状で来院したAが万華区在住、さらに家族の話からAはクラスターが発生した茶芸館に行っていたことがわかったのだ。
亜東医院はすぐさま患者のPCR検査を行った。「14日朝にAの感染が確認された。2日目に別の2名の感染を確認、3日目、4日目と感染者は増えていった」。
Aは活発で外に出歩くのが好きな人物だったという。Aを発端とした院内感染は最終的に医療スタッフ、家族、入院患者ら9人を感染させた。そして呼吸器系の持病があり体が弱っていたA自身は17日午後に死亡した。87歳だった。「亡くなったのは彼だけではない」と邱副院長はつらそうに話す。台湾での新型コロナウイルスによる死者は14例となった。
突然の出来事であったが、亜東医院の対応は冷静で何とか感染を食い止めていたが、18日に行った2回目のPCR検査で看護師2名に新たに陽性反応が出たのには衝撃が走った。
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