台湾TSMCへの高性能半導体依存が益々強まる事情 世界は巨大ファウンドリとどう向き合えばいいか

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第2に、TSMCの技術力は、たゆまぬ企業努力のたまものであると同時に、顧客(シリコンバレー系のファブレス、スタートアップ、デジタルプラットフォーマー)、装置サプライヤーやEDAツールのベンダーといったアメリカ企業との長年にわたる協業の成果物でもある。TSMCは、アメリカを中心とするグローバルな半導体技術エコシステムの中から生まれ、その中で鍛え上げられた存在だともいえる。

そのTSMCが、“Everyone’s Foundry”を標榜して、ファーウェイ等の中国企業との取引を拡大したことは、ハイテク技術覇権をめぐる米中間の競争が強まった2018年以降、経済安全保障上の新たな懸案を生み出すことになった。

巨大な国内市場、政府による強力な支援策、科学技術力の向上を背景に、技術覇権を狙う中国のハイテク企業にとって、TSMCの存在は、キャッチアップの困難な半導体製造面での技術ギャップを解消し、アメリカ企業と対等に戦ううえでの「踏み台」を提供することになったからだ。これは、上で見た「TSMC依存」が引き起こすサプライチェーンの断絶リスクとは異なる、「TSMC由来」の地政学的なリスクだ。

異なるリスク、異なるカード

ファーウェイは、TSMCによって開かれたチャンスを最も有効に活用したのち、TSMCへの依存リスクの代償を最も手痛いかたちで支払わされることとなった事例である。

ファーウェイは、傘下ファブレスのハイシリコンを通じて、スマートフォン向け、基地局向けの半導体製造の大部分をTSMCに委託していた。ここに着目したアメリカ政府は、2019~2020年にかけて、輸出規制策の段階的な強化を通じて、TSMCとハイシリコンの取引を断ち切り、ファーウェイの世界戦略に大きな打撃を与えた。この出来事は、TSMC依存が引き起こすサプライチェーン断絶リスクの大きさを世界にしらしめるものとなった。

一方、アメリカの産業界も、ロジック半導体セクターにおけるフラグメンテーションの潮流を牽引してきたがゆえに、「TSMC依存」が引き起こすサプライチェーン断絶のリスクに直面している。 

しかしアメリカは、TSMCに対する絶大な影響力を背景に輸出規制策を通じて、「TSMC由来リスク」を効果的に封じ込めることにも成功している。アメリカのハイテク産業は、基幹的な製造装置、EDAツール、IPといった半導体技術の最上流部分と、市場という最下流とを同時に掌握しており、これを通じてTSMCを自らの陣営に深く組み込んでいるからだ。

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