もっとも、TSMCが戦略的に重要なチョークポイントとなる構図は、今に始まったものではない。TSMCへの依存のリスクに世界の注目が集まるようになった背後には、以下のような近年の状況がある。
第1に、米中対立の先鋭化と台湾海峡における軍事的緊張の高まりに伴い、TSMCの工場が、中国の目と鼻の先にある台湾に集中していることへの懸念が高まっている。第2に、最先端の半導体工場は、大量の水と電力を消費するが、台湾では、そのいずれもが不足しつつある。台湾を襲った昨年来の水不足と、今年5月の2度にわたる大規模停電は、いずれも世界の半導体サプライチェーンに暗い影を落とすこととなった。
それにしても、世界の高性能ロジック半導体のサプライチェーンは、なぜこれほどまでに「TSMC頼み」となっているのだろうか。同社の競争力と代替不可能性は、何に由来するのだろうか。
TSMCの優位性としては、以下の5要素が挙げられる。
② 中核的な装置メーカーとの緊密な協業の積み重ね
③ 傑出したプロセス技術を中核とし、新たな技術競争の焦点でもある3Dパッケージング等の関連領域にも広がりをもつ技術力
④ 充実したIPライブラリに代表される、顧客企業の設計を支えるサポート力
⑤ 顧客の多様性の利益
顧客の多さと多様さがさらに優位性を強める
現在、TSMCは、アップル、クアルコム、AMD、アマゾンといった大企業からスタートアップまで、アメリカ企業を中心に、約500社の顧客を擁する。半導体ファウンドリに限らず、受託生産ビジネスの肝は、取引の繰り返しの中で生まれる顧客からの情報の流れを活用して、最先端の技術や市場に関する情報を豊富に取り込み、それを基に顧客サポートを強化して、一流顧客の取り込みを強めることにある。TSMCが擁する顧客の多さと多様さそれ自体が、同社の情報面での優位性を強めていると考えられる。
以上のようなTSMCの優位性からは、以下の2つのポイントが導かれる。
第1に、TSMCがサプライチェーンの中で占める圧倒的なポジションは、TSMCが専業ファウンドリとして30年近くにわたって培ってきた複合的な強みに支えられており、他社の追随を許さないレベルに達している。TSMCを追ってファウンドリ事業に挑むサムスン電子やインテルは、①②③の面では高い実力を持つが、④⑤は十分には持ち合わせていない。中国のファウンドリは①②③にも欠ける。「TSMC頼み」の構図は、今後も長期にわたって続くだろう。
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