「半導体パニック」自動車産業に与える巨大衝撃 産業ピラミッドの王者を主従逆転する序章か
「なんとか半導体の必要分をかき集めてもらえないか」
今年1月、自動車メーカー、SUBARUの調達担当役員は仕入れ先への依頼に奔走していた。目的は日に日に逼迫度が増していた車載向け半導体の確保だ。だが、「部品メーカーのトップクラスに直談判を繰り返しても、色よい返事はもらえなかった」(SUBARU関係者)。結局、同社は半導体不足の影響で、3月までに年間計画の5%に当たる4万8000台の減産に追い込まれた。
SUBARUだけではない。自動車業界は昨年前半の新型コロナウイルスによる大減産から年末にかけて急速に販売が回復してきたところで、半導体不足という新たな壁に行く手を阻まれている。
昨年末にドイツ・フォルクスワーゲンがいち早く生産調整を発表。年明けからは、程度の差こそあれ、国内外のあらゆるメーカーが生産調整を余儀なくされている。イギリスの調査会社IHSマークイットは、今年1~3月の半導体不足に伴う減産影響は世界で100万台近くになると推計。自動車メーカー幹部はこう漏らす。「せっかく販売の勢いが戻ってきていたのに残念だ。とにかく影響を最小限に食い止めたい」。
3月19日には国内半導体大手ルネサスエレクトロニクスの主力工場、那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生。売り上げにして同社の2~3割に当たる製品を生産するラインが停止した。復旧には少なくとも1カ月はかかる見通しだ。ほかのラインで製造できない製品も数多く含まれており、今後、自動車産業ではさらなる生産調整に追い込まれる可能性がある。
『週刊東洋経済』は3月22日発売号で「全解明 半導体パニック」を特集。なぜ半導体不足が自動車産業を直撃したのか。その産業構造をどう変えるのか。その理由を探った。
秋以降に自動車生産が急回復
半導体逼迫の一因が自動車生産の予想外の急回復だ。新型コロナの第1波が世界を襲った昨年4月ごろ、各国が行ったロックダウン(都市封鎖)により、自動車各社は工場の稼働停止を余儀なくされた。消費も低迷し、販売も見込めないと予想された。その頃、半導体メーカーには発注のキャンセルや繰り延べが大量に発生していた。
ところがふたを開けてみると、一足先に大流行から脱した中国が驚異的な回復を見せ、4月以降は前年同月を上回る新車販売台数となった。欧米や日本も夏以降に回復し、秋からは前年以上の販売ペースを達成するようになったのだ。
自動車産業では、綿密な製造計画を基に、必要な分だけその都度発注する「ジャスト・イン・タイム」が浸透しており、余分な在庫は持たない。緻密なコスト計算を可能にする完成度の高いサプライチェーンマネジメントだ。一方で、急激な需給の変化には対応しづらく、今回はその負の面が露呈した。
とくに、半導体は材料であるシリコンウエハが完成品のチップになるまでに半年近く時間を要する。夏前に弱気な見立てで発注した量以上が秋以降に必要になっても、急な増産は難しかった。