将軍就任を断固拒否した「徳川慶喜」の驚愕の本音 こっそり呼んだ側近に「徳川家はもう持たない」
だが、今回ばかりは、慶喜の強情ぶりはこれまでの比ではなかった。板倉や松永、旗本の永井尚志らが何度、持ちかけても応じるそぶりすらなく、こう言い切るのみだった。
「私には将軍になる気持ちはない。万一、朝廷で仰せ出されるようなことがあれば、引退するつもりだ」
思案に暮れて珍妙なことを言い出した
側近の原市之進をこっそり呼び出しては、こんな問いかけをしたこともあったと、自身でも振り返っている(『昔夢会筆記』)。
「徳川家はもう持たない。この際、王政復古をしようと思うのだが、そちはどう思う」
市之進は「その考えはごもっともだが、少しでもやり方を間違えれば、大混乱に陥ります。失礼ながら、今の老中たちでは対応しきれないのではないでしょうか」と、とりあえず、今は現体制を維持したほうがいいのではないかと、慶喜をなだめている。
将軍は引き受けないとしても、次の一手をどう打つか。思案に暮れた慶喜は、こんな珍妙なことを言い出した。
「徳川家を相続するだけで、将軍職を引き受けなくてもよいなら、考えてもよい」
これまで将軍家と徳川宗家の相続は分けられないとされてきた。だが、慶喜はそんな常識をひっくり返して、「徳川家のみ相続する」と言い出したのである。
なぜ、そこまで将軍職を拒んだのか。実は、慶喜には将軍職を受けたくても、とても受けられない事情があった。
(第7回につづく)
【参考文献】
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
野口武彦『慶喜のカリスマ』(講談社)
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