将軍就任を断固拒否した「徳川慶喜」の驚愕の本音 こっそり呼んだ側近に「徳川家はもう持たない」

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だが、今回ばかりは、慶喜の強情ぶりはこれまでの比ではなかった。板倉や松永、旗本の永井尚志らが何度、持ちかけても応じるそぶりすらなく、こう言い切るのみだった。

「私には将軍になる気持ちはない。万一、朝廷で仰せ出されるようなことがあれば、引退するつもりだ」

思案に暮れて珍妙なことを言い出した

側近の原市之進をこっそり呼び出しては、こんな問いかけをしたこともあったと、自身でも振り返っている(『昔夢会筆記』)。

「徳川家はもう持たない。この際、王政復古をしようと思うのだが、そちはどう思う」

市之進は「その考えはごもっともだが、少しでもやり方を間違えれば、大混乱に陥ります。失礼ながら、今の老中たちでは対応しきれないのではないでしょうか」と、とりあえず、今は現体制を維持したほうがいいのではないかと、慶喜をなだめている。

将軍は引き受けないとしても、次の一手をどう打つか。思案に暮れた慶喜は、こんな珍妙なことを言い出した。

「徳川家を相続するだけで、将軍職を引き受けなくてもよいなら、考えてもよい」

これまで将軍家と徳川宗家の相続は分けられないとされてきた。だが、慶喜はそんな常識をひっくり返して、「徳川家のみ相続する」と言い出したのである。

なぜ、そこまで将軍職を拒んだのか。実は、慶喜には将軍職を受けたくても、とても受けられない事情があった。

第7回につづく)

【参考文献】
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
野口武彦『慶喜のカリスマ』(講談社)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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