「日経平均の3万円超定着」には何が必要なのか アメリカのインフレ懸念はどこまで本当?
そもそも株式市場にとってインフレは悪なのか。一般論として単にインフレが進むだけでは株価に悪影響は及ぼさず、それ自体はポジティブな面もある。企業がコスト上昇分をそのまま、あるいは上乗せして販売価格に転嫁する状態こそがインフレであるから、そうした下で企業の売り上げと利益の絶対水準は増加し、株価にはむしろ好材料として働く。これが「インフレヘッジとしての株式」と言われるゆえんでもある。
また、そもそも現在の予想インフレ率(2%台半ば~後半)が「懸念」というレベルに達しているのかという疑問もある。FRBの政策目標はPCEデフレータ(個人消費段階での物価上昇圧力を測る尺度)で計測したインフレ率が平均的に2%程度で推移することである。中長期的な消費者物価指数上昇率が2%台半ばになるという現在の予想インフレ率は「デフレ回避に成功」と評価することもでき、むしろポジティブな印象すら受ける。
ちなみにFRBが重視するPECデフレータは、消費者物価指数よりも低めに出ることが知られており、たとえば2018年10月はPECデフレ-タは前年比プラス2.1%、消費者物価指数はプラス2.5%であった。こうして考えると、最近の予想インフレ率上昇は、FRBにとって好ましい水準であるといっても違和感はないだろう。以上に鑑みて筆者はインフレ懸念が株式市場でさほど大きな問題にならないと予想している。
先々注目したい2つの重視すべき要因とは
では先々の注目点として重要なのは何であろうか。それはやはり2022年前半と目されているFRBのテーパリング(量的緩和の段階的縮小)を見据えた中期目線であろう。それに先立って、コロナショック発生以降の株高を大別しておく必要がある。その1つは、マネー要因。もう1つは、製造業を中心とするマクロファンダメンタルズの回復である。この2つの異なるテーマの時間軸をしっかりと見極めていくことが重要だろう。
マネー要因とは、各国政府が支給した給付金や休業補償といった財政支出と、各国中銀が実施した空前の大規模金融緩和が源泉。たとえば、2021年3月におけるアメリカのマネーストックは2020年1月対比でプラス29.1%と驚異的な伸びを示し、ユーロ圏もプラス12.8%、日本もプラス8.0%と大幅に増加している。
G4中銀(日本・アメリカ・ユーロ圏・イギリス)の総資産GDP比はコロナ危機前から20%ポイント以上も上昇し、4月時点で57.6%となっている。こうした“じゃぶじゃぶ”のお金が金融市場になだれ込み、コロナバブルとも言える状況を招いたとみることもできる。実際、G4中銀のバランスシート規模と世界株は連動性を有している。
他方、意外なことにコロナ禍における株価上昇は、製造業のマクロファンダメンタルズで説明することもできる。コロナパンデミックの特徴として、IT関連財の需要増加があり、これが企業収益を押し上げ、株価上昇を正当化した。またアメリカと中国における好調な自動車販売も一因だ。その証拠に、コロナパンデミック前から連動性を有してきたグローバル製造業PMIと世界株式(MSCIワールド)は2020年春の一時期を除いて、ほとんどその関係に変化が見られなかった。
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