「日経平均の3万円超定着」には何が必要なのか アメリカのインフレ懸念はどこまで本当?

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FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は、4月のアメリカ消費者物価指数の大幅な上振れについて「一時的要因」によるものと説明している(ロイター/アフロ)
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5月の日本株はまさに“セルインメイ”がごとく一時大きく下落する場面があった。大きな原因となったのは5月12日発表の4月アメリカ消費者物価指数(CPI)が喚起したアメリカのインフレ懸念であった。統計発表後にアメリカ長期金利は上昇し、それが世界的株価下落に波及。日経平均株価もその余波で一時2万8000円台を割り込み、現在も3万円を回復できずにいる。

このようにアメリカのインフレ「懸念」は一躍、世界金融市場のメインテーマに躍り出た。上述のとおり4月のアメリカ消費者物価指数は市場予想を大幅に上振れ、前年比上昇率はプラス4.2%へと急上昇した。コモディティー価格の上昇などからエネルギー価格は前年比プラス25.1%へと伸びを高め、食料・エネルギーを除いたコアCPIも前年比プラス3.0%へと達した。コアCPIは90年代後半以降に経験したことのない伸び率である。このように前年比で見た瞬間風速のインフレ率はかなり高まっている。

アメリカの消費者物価急上昇の理由とは?

消費者物価指数の前年比上昇率が急上昇した理由は主に2つある。1つは、比較対象となる2020年春の実績値が極端に低かったことで前年比の数値がテクニカルに押し上げられたこと。

もう1つは、先送りされた需要が一気に発現したことで著しい需要超過状態になったことである。前者をベースエフェクト要因(前年の裏ともいう)、後者はペントアップデマンド(繰り越し需要)要因と区別できる。FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は双方とも「一時的」要因であると説明するが、債券市場参加者がそう考えなければ、金利は急上昇してしまい、株価に大きな打撃となることも想定される。

その点、債券市場参加者の見方は冷静で、これは株式市場にとって安心材料である。というのも、債券価格から逆算して算出される予想インフレ率が安定しているからだ。5年先(=2026年)から5年後の平均的な消費者物価上昇率の予想を表す5年先5年予想インフレ・スワップは現在2%台半ばで推移しており、これはコロナパンデミック発生前とさほど変わらない。

換言すれば、長期的なインフレ率がその水準に落ち着くとの予想であるから、債券市場参加者はFRBと同様に最近のインフレ率上昇を「一時的」現象であると判断しているということだ。今後5年間の予想インフレ率を反映する5年物BEI(ブレークイーブンインフレ率=5年物の物価連動国債と通常国債の利回り差)が2%台後半へと水準を切り上げ、3%に迫ろうかという勢いで上昇しているのとは随分印象が異なる。債券市場参加者がこうした物価見通しを維持すれば、長期金利が急上昇する可能性は低下し、金融市場全体の安定につながる。

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