注意すべきなのは、どの予約方式が望ましいかは状況に依存するということである。接種初期の需要が供給に対してはるかに強い状況では、抽選制・完全年齢順・割当制が先着順に勝る。一方で、ワクチンに対する需要が落ち着いてきた段階では、先着順の予約方式、あるいは予約を廃した(予約なしで直接接種会場に行く)先着順が望ましい選択肢となる。割当制はキャンセル時に希望を聞いた上での再予約が必要であり、そのような希望者が多いと再び予約システムが必要となる。それゆえ、割当制は、キャンセルと再予約の要望が少ないと考えられる年齢層や自治体で望ましいことに注意が必要である。
ネット予約を勧奨するために必要なこと
電話予約は多数の電話回線だけでなく、自治体担当者やコールセンターのスタッフの人数と時間を必要とする。そのため、電話予約で対応できる予約件数は極端に少ない。したがって、電話予約しかできない人々もスムーズに予約申込ができるように、コールセンターの処理能力はなるべく温存するべきである。
電話予約に代わり、インターネット予約を勧奨するためには、「ネット予約ができる人は電話予約をしても得しない」という状況を作り、この事実を周知するべきである。具体的には、接種枠の多くをネット用に取っておく、あるいは、ネットと電話で予約枠を分けないという方法で、この状況を作り出すことができる。
集団接種だけではなく、個別医療機関による個別接種も多くの自治体で実施される。個別接種の予約方式は、各医療機関に電話で申し込みをする形になっていることが多い。しかし、各医療機関に接種希望者が個別に予約申込をすると、個々の医療機関の電話対応能力が低いため、電話がつながらない事態が発生する。
また、個別医療機関に電話するまで空いている予約枠があるかどうかわからないと、実は都合のつく枠があるのに接種希望者がそれを見つけられないという状況が発生してしまうため、予約枠をうまく埋められず、接種のスピードが遅くなってしまう可能性もある。したがって、個々の医療機関の要望に応じて、自治体がワクチン配布に関する予約管理を代行する仕組みをつくるべきである。
ワクチン接種を円滑にするためには、接種希望者がワクチン接種可能な日を多くすることが必要である。副反応が出る場合に備えて、接種予定候補日とその翌日に仕事を休むワクチン休暇を取得できるように、政府がモデル就業規則を定めて、経済界に広く勧奨すべきである。
以上のように、経済学のマーケットデザインの考え方を使うことで、ワクチン接種予約システムを改善することができる。経済学の知見を活かしてワクチン接種を効率的に進めていただきたい。
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