「発達障害の上司」から心を守るためにできること 深刻化する「カサンドラ症候群」の実態

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改めて、カサンドラ症候群とはどういうものなのか。

「どんぐり発達クリニック」の精神科医、宮尾益知先生

「もともとカサンドラ症候群の基本的な概念は、家庭内で夫妻のコミュニケーションがとれないことによって引き起こされるものとされています。ところが最近では会社でもASDの上司と一緒に働くことによって、精神病、うつといった身体的な不調を訴える状態が報告されるようになりました。職場でのうつ状態もカサンドラ症候群として、大きなくくりで捉えています」

どんな場合に、職場で問題になるのだろうか。

「上司がASDの場合、正義感や感情論に訴えても通じません。そういった上司は売り上げが高いとか低いとか、数字がすべてになりがちで、部門をまとめたり、人材を育てるような役割はできないのです。自分が外の世界に合わせて動くのではなく、外の世界は存在しないかのように動きます。部下はその特性を理解できないため、カサンドラ症候群になってしまうケースが多いですね」

違うコンビニを指定されるだけで混乱

ASDの特性を理解するうえでの例として、コンビニのたとえ話がある。「今日はセブンイレブンじゃなくて、ファミリーマートに行ってきて」と言うと、一般の人なら「セブンイレブンに行ったことがあれば、ファミリーマートもコンビニだから、まあ一緒だよな」と思って行動する、

ところがASDの人は、「セブンイレブンという店には行ったことがあるけれど、ファミリーマートという店には行ったことがない」と考える。そうして「初めてのところは怖いから、ちょっと……」と答えたりするのだ。

細部にこだわれば、セブンイレブンとファミリーマートでは店のロゴも色も品揃えも違うのだが、ASDの人はそれらが同じジャンルに分類されるものだと想像ができないのだ。

「ファミリーマートとセブンイレブンは何が一緒かというと、機能が一緒なんです。一般の人は機能を想像して分類して、同じ機能を持っているものは同じようなものだと直感的に考えるから、初めてのことでも実行できるんです。ところがASDの人は新しい未知なものと捉えてしまいます。

入ってくる情報を整理して必要なものにまとめることを『セントラル・コヒーレンス』といいます。簡単に言うと『要するに』として理解することです。こういった情報処理がASDの場合は困難で、どうしても細部へ集中してしまいます。木を見て森を見ずということなんですね」

全体像を捉えられないため、職場でも舌禍問題を引き起こすケースも多いのではないか。

「心の中のことをそのまま言ってしまうから舌禍問題になってしまうんです。一般的には自分の言ったことは覚えてますよね。ところがASDの人はほとんど覚えてない。心の中でなんとなくしか思っていないことを、喋る時にはっきり言ってしまうから、本人は、言ってるんだか言ってないんだか、実はよく分からない。だから後になって『あの時はああ言いましたよね』って言っても、『言ってない』っていうことになるんです」

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