「発達障害の上司」から心を守るためにできること 深刻化する「カサンドラ症候群」の実態
部下がカサンドラ症候群に陥った具体例がある。ある会議で業務報告をしていると、上司から『お前、何暗い顔してるんだ、笑顔で報告しろ!』と全員の前で怒鳴られた。その後、何度も鏡を見ながら笑顔で報告する練習をして、次の会議では少し大げさな笑顔で報告した。しかし、会議後に呼び出され『お前、何度言ったらわかるんだ!笑ってないんだよ!』と怒鳴られてしまう。結局その部下は誰にも相談できず、どうしたらいいかわからずに体調を崩してしまったという。
「ASDの人は顔の表情を読めないという特性もあります。だからトリックアートやだまし絵のようなものは理解できないんですね。ワイングラスが中心に描かれている絵で、左右のスペースが人の横顔に見えるというだまし絵がありますが、単なるひとつのワイングラスにしか見えません。ASDの人がトリックアート美術館に行ったところ、『何がだまし絵なのかさっぱりわからなかった』と言っていました。一枚の絵の中に二つ目の意味が含まれているということがわからない。はじめに認識したものをすべてとして見てしまうんです」
上司がASDだったらどうしたらいいか
ワンマンでカリスマ経営者がASDだった場合、部下は振り回されて大変だが、現場でうまく対処するにはどうしたらよいのか。
「ASDの人は他人から指示されたり何か言われることを最も嫌いますが、情報収集はしたいんです。だから正面切って強く訴えるのではなく、何気なくさらっとつぶやくことが効果的です。彼らは『部分』にこだわってしまう特性があるため、つぶやくように話すと、観察しながら学習するのです。他人とうまくコミュニケーションを取っている場面を見て、『どうすればあんなにうまくやれるのか』という情報を少しでも集めたいわけです。そのタイミングの時に、こうして欲しいという情報を入れれば、『なるほど、こうすればいいのか』という認識になります」
決して共感を求めるように訴えるのではなく、相手の気持ちをうまく利用しながら「単なる情報」として、冷静に伝えることが重要だという。
「その上司にとって有益な情報を流すことも効果があります。例えばこんなおもしろい論文、記事がありましたと言って渡せば、『それを●●に役立てればいいんじゃないか』と反応することもあるでしょう。自分の味方だと思わせるように行動していくのが良いでしょうね」
業績がよく、うまく回っている部門や会社には、上司や経営者に対して進言することのできるNo.2や、有能な秘書がいたり、その人の言うことだけには耳を傾けるといった外部のキーマンがいたりする。ASDの特性を知った上で、そういった人にどう話を切り出せば良いかを相談してみると、意外と具体的なヒントが見つかる場合もあるという。
「当事者たちが問題の本質をわかっていないこと」「周囲が問題の存在を理解してくれないこと」。この2つの要素が、カサンドラ症候群を解決に近づけるうえでの重要なポイントだ。
新型コロナの影響が長引き、友人や同僚たちと顔を合わせる機会が少なくなっていることも、カサンドラの増加に拍車をかけているのは間違いない。
上司の言葉を気にし過ぎて心身の体調を崩したり、職場に行くことが憂鬱で眠れないなどの症状がある場合、早めに産業医や専門医などに相談してみるのもよいのではないだろうか。
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