中国へ宣戦?「バイデン施政演説」超強烈な中身 計量分析でわかった「トランプ以上」の強硬姿勢

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これまでは施政方針演説の内容から、今後の対中政策、特に経済安保における危機的水準について述べてきたが、ここからはバイデン氏の政策に大きな影響を与えた「グローバルトレンド2040」(Global Trends 2040。以下「GT2040」)が描く未来予想図について解説していきたい。

「グローバルトレンド」とは、アメリカの国家情報会議(NIC)が1997年以降、新たに就任した大統領に報告している情報リポートを指す。GT2040はバイデン氏のために作成されたリポートであり、人口と環境、経済、技術の4つのパラメーターを分析して、2040年の世界について5つのシナリオを提示している。

ここで注目してほしいのはパラメーターに軍事力が含まれていないことだ。2012年に報告されたGT2030では「軍事費」について分析しているが、GT2040で「軍事費」を除外した代わりに「環境」を採用している。

その理由は触れられていないため推測するほかないが、1つは2040年には米中の軍事力が逆転している可能性があるため意図的に除外したことであり、もう1つは国家間の戦いが軍事力から経済を武器・戦場とした経済安保に移行したために除外した、ということが考えられる。

GT2040が提示する5つのシナリオ

では、GT2040は20年後の世界をどのように予測しているのだろうか。①国際環境がより困難になった3つのシナリオ、②国際環境が根本的に変化した2つのシナリオを提示しているので、それぞれの概要を見ていきたい。

①−1「民主主義の復活」:アメリカと同盟国が主導する民主主義が復活する最中であり、経済成長と科学技術発展の恩恵を受けて、世界の人々の生活は向上している。一方で、中国とロシアによる社会的統制は、一流の科学者と起業家がアメリカやヨーロッパに亡命したため発展することはなかった。
①−2「漂流する世界」:台頭した中国や地域大国、非国家主体による国際的ルールの無視と経済協力開発機構(OECD)諸国の政治的麻痺により、世界は混沌とした不安定な状態に置かれている。中国は国際的な影響力を拡大しているが、世界的な課題解決には対処できていない。
①−3「競合的な共存」:経済成長を優先したアメリカと中国は強固な貿易関係を回復し経済的な相互依存が高まった。一方で統治機構や技術的・戦略的優位性をめぐる競争は存在している。先進国は短期的には地球規模の問題に対処できるが、長期的な気候変動の課題は残されている。
②−4「サイロ化」:アメリカや中国、EU、ロシア、いくつかの地域大国を中心とした経済・安全保障ブロックに分断されており、情報とサプライチェーンはブロック内で行われるため国際貿易は混乱している。サイロ化から除外された発展途上国は破綻寸前あり、地球規模の問題は対処されていない。
②−5「悲劇と流動化」:EUと中国を中心とした世界的な連合がNGOの協力を受けて、気候変動など地球規模の問題に対処している。先進国は援助プログラムの提供と先進エネルギー技術の移転を通じて、低炭素経済への移行を支援している。
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