中国へ宣戦?「バイデン施政演説」超強烈な中身 計量分析でわかった「トランプ以上」の強硬姿勢

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バイデン氏は習近平氏について3回にわたり言及したが、その内容はかなり強烈だ。

1回目では習氏を「専制主義者」と決めつけ、「専制主義者は、民主主義はコンセンサスを得るのに時間がかかりすぎ、21世紀には専制主義に対抗しえないと考えている」と自説を披露した。

2、3回目では今年2月の習氏との電話会談に触れ、「私たちは競争を歓迎する。対立を望んでいるのではないと話した。ただ、全面的にアメリカの利益を守ることも明確にした」と会談内容の一部を明かしながら、「欧州での北大西洋条約機構(NATO)と同じように、インド太平洋地域で強力な軍事プレゼンスを維持するとも伝えた」と対立姿勢をにじませた。

これら習氏と中国への言及の中でキーワードとなるのが「専制」だ。原文の「autocrats」と「autocracy」は一般的に独裁者・独裁主義を意味するが、政治学的には「専制」(autocracy)と「独裁」(dictatorship)は明確に区別されている。

専制は特定の個人や階級あるいは政党などの単独支配を意味する民主主義と対立する概念を指すが、独裁は権力の集中に力点を置いた概念であり、プロレタリア独裁のような政治形態があるように必ずしも民主主義と対立する概念ではない。

つまり、日本語の語感としては独裁者と指弾されるほうに悪意を感じるが、政治用語として解釈すれば専制主義者のほうにより悪意が込められているのだ。バイデン氏は今後4年間のビジョンを語る中で、ライバルの習氏をそのように評価した。

トランプ氏ですら「専制」は使わなかった

中国との経済的対立を推し進めたトランプ氏であっても施政方針演説で専制(独裁)という言葉を用いなかったし、さらに遡れば民主主義と全体主義の戦いといわれた第2次世界大戦当時のルーズベルト大統領が行った対独・日参戦についての2つの演説でも専制(独裁)という言葉は登場していない。それほど専制という言葉が持つ意味は重いといえる。

アメリカ軍が中国と戦いを念頭に採用した新たな軍事ドクトリン「全領域戦」(ADW: All-Domain Warfare)は、戦いの領域が従来の陸海空から宇宙・サイバー・電磁波・情報・認知・政治・経済・法律の領域にまで拡大し、戦いの時間軸は競争、危機、紛争の順序を経ると定義している。

このドクトリンを念頭に置けば、1972年のニクソン訪中に始まり、和解から協調を経て競争に入った米中関係について、バイデン氏が投げかけた専制という言葉によって「危機」の段階に入ったと指摘しても、見当違いにはあたらないだろう。

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