「五輪派遣にNO!」看護師たちの厳しすぎる現実 日本看護協会への不満から、退会する人も

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東京都からの要請で洋子さんの勤める病院でもコロナ患者を受け入れ始めると、ただでさえ激務だった病棟が、まるで野戦病院と化していった。コロナ病棟だけでは患者を受け入れきれず、循環器内科病棟で個室が空くと、そこにコロナ患者が入れられる。洋子さんら看護師は、循環器内科の患者を受け持ちながら、防護服を脱いでは着ての繰り返しで、個室にいるコロナ患者も看護しなければならなくなったのだ。

「コロナの患者を看ている最中に循環器内科の患者が急変し、ほかのスタッフから呼び出しのコールが鳴っても、すぐ駆け付けられないのがつらいです」

16時間以上続く夜勤、残業代は支払われず休日出勤

過酷な労働に見合わない待遇も精神的な負担になる。コロナ患者を受け入れている病院は、手術の延期、外来診療の抑制など感染予防対策をすることで赤字に陥っている。洋子さんの病院も赤字になり、残業代が支払われなくなった。業務は増える一方で、毎日、タイムカードを押してから2~3時間残業せざるをえない状況だ。休み返上で呼び出されることもある。

感染予防のため患者の家族が面会できず、そのストレスの矛先が看護師に向き、看護師が罵声を浴びせられることも多い。コロナ患者の受け入れ病院だということを理由に、中堅以上でスキルのある看護師たちは辞め、美容関係や夜勤のないクリニックに転職していった。4月に新卒の看護師が入ったが、コロナの影響で実習を経験できずに就職したため、病棟に配属されても何一つできない。かといって洋子さんらには新人を指導する余裕もない。

そうしたなか、ワクチン接種後に体調が悪くなった看護師が相次ぎ、残った看護師に大きなしわ寄せがきた。洋子さんは夜勤明けの日にまた夜勤をせざるをえないことも。夕方4時頃から16時間以上も続く夜勤が連続することもあり、疲労困憊状態となった。

コロナ患者を受け入れる前までは、夜勤明けの翌日と翌々日は休みをもらえていたが、今は人手不足で2日連続の休みはとれない。疲れ果てて、休みは眠り続け、疲れが取れないまま出勤して看護しなければならない。

たまの休日。つい先日も入院患者がPCR検査を受けて陽性反応が出たため、担当した洋子さんもPCR検査を受けなければならず病院に向かった。休みがあってもまったく体は休まらない。感染予防対策で頻繁に行う消毒で手指の関節が切れて出血。皮膚科でステロイドを処方してもらって塗っても治らない。洋子さんは、労災申請してもいいのではないかとさえ思えてくる。

「こうして日々、耐えながら働いています。それなのに、オリンピックのためにボランティアで看護師を派遣してということの意味がわかりません。派遣を要請された看護協会が私たちを守ってくれると感じることができないのです」

東京に日本看護協会の本部があり、看護師は都道府県ごとにある看護協会に入会して協会に所属する。会員数は全国に73万人以上。日本で就労している看護師と准看護師は約150万人いることから、約半数が加入していることになる。都道府県によって金額は異なるが年間に約1万5000円の会費を納入する。

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