看護師の過酷な労働時間と環境
「現場の看護師はもう限界です」
都内の有名病院で働く川野洋子さん(仮名、30代)は、なんとか職場に踏みとどまっているが、この春、職能団体である看護協会を退会するという“立ち去り型サボタージュ”を決行した。
かつて病院の勤務医が過酷な労働に耐えきれず、黙って病院を辞めて当直のないクリニックに移ることが「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれ、注目を集めた。もちろん看護師の場合でも同様のことがあるが、今、注目されるのが、看護職の約半数が入会している看護協会を退会するという「無言の抵抗」だ。
病院勤務の看護師の管理職のなかには、大病院の看護部長を経て看護協会の役員になることが出世コースと捉えるケースもあり、部下を協会会員に強制加入させることも少なくない。上下関係が厳しい看護の世界で、上司が入会を勧める看護協会を退会する。こうした看護師版の立ち去り型サボタージュ現象は、オリンピックへの看護師派遣の要請をきっかけに目立っている。その背景にあるのは、この何十年と変わらない看護師の過酷な労働実態だ。
冒頭の洋子さんの配属先は循環器内科病棟。病院内で最も忙しい病棟だという。心筋梗塞や心不全など心臓の病気で入院する患者は急変しやすく、救命処置に当たらなければならないことが多く、ナースコールは鳴りやまない。ましてや夜勤ともなれば、50人以上の患者を看護師4人体制で看護するため激務となる。夜勤の間は16時間以上、ずっと病棟を走り回っている状態だ。
夜勤については、看護師不足、労働条件の改善を目的にした「看護師確保法」(看護師等の人材確保の促進に関する法律、1992年制定)の基本指針で具体的に定められている。3交代の夜勤は1回当たり約8時間で月8回以内が努力義務とされている。2交代の場合は1回の夜勤が16時間以上に及ぶため月4回以内となる。洋子さんの病棟では1回16時間以上に及ぶ2交代夜勤が月5回に上る(3交代の換算で月10回)。それでも洋子さんは、「友人は2交代夜勤が月7回というケースもあるので、まだマシ」と苦笑いする。
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