「五輪派遣にNO!」看護師たちの厳しすぎる現実 日本看護協会への不満から、退会する人も

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看護部は新人看護師に看護連盟について説明し、事務室には与党の国会議員のポスターが貼られていた。看護の現場に政治を持ち込まれることに久美子さんは抵抗感があり、仲間と抗議した。こうした経験もあり、オリンピックへの看護師派遣要請がニュースになると久美子さんは「看護協会は本当に現場で働く看護師のための団体になっているのだろうか」と疑問が膨らんだのだった。

「看護は犠牲的行為であってはならない」

また、災害ボランティアに参加した経験のある久美子さんは「同じ“ボランティア”といっても、政治的な意味合いが強く見えるオリンピックへの看護師派遣の要請と災害時の看護とでは、まったく意味が違います。自己犠牲で看護をしてはいけない。そう言ってくれない看護協会に入会している意味はない」と怒りをあらわにする。

折しもSNSでは、医療や介護従事者の労働組合である愛知県医労連(愛知県医療介護福祉労働組合連合会)によるツイッターデモ「#看護師の五輪派遣は困ります」が瞬く間に広がり、4月28日の投稿以降、ツイートが44万件を突破。フローレンス・ナイチンゲールの「看護は犠牲的行為であってはならない」という名言が添えられ、拡大している。

ツイッターデモが国内外のメディアからの注目を集めたことから、東京五輪・パラリンピック組織委員会が看護師500人の派遣を要請したことについて菅義偉首相が「休んでいる方もたくさんいると聞いている。可能だと考えている」と官邸で記者団に語ったことが、現場の看護師の怒りを増長させた。「なぜ辞めて、資格を持っていながら看護師として働かない『潜在看護師』になっているか、首相はわかっていない」と──。

ツイッターデモを行った愛知県医労連の西尾美沙子書記長が訴える。

「現場は今、精いっぱい。1人たりとも看護師を派遣なんてできない状態に陥っています。もともとの人手不足にコロナが追い打ちをかけ、休みの日が月に1日しかない看護師もいます。看護師は、コロナで今まで以上に業務が増えているのにボーナスがカットされ、周囲からは感染を疑われ差別もされる。心身ともにバーンアウトしています。

その大きな矛盾のなかで懸命に患者を看ているのに、オリンピックのためにボランティアで派遣されてよいはずがありません。オリンピックを優先するよりも命を守ることが大切だとツイッターを通して伝えたかった。看護協会には毅然として看護師の派遣要請を断って現場を守ってほしい。ツイッターデモをきっかけに、一般の多くの人にも看護現場が抱える労働問題の本質を考えてみてほしいです」

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