「五輪派遣にNO!」看護師たちの厳しすぎる現実 日本看護協会への不満から、退会する人も

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新型コロナウイルスの感染拡大が起こるずっと以前から看護師は不足しており、長時間労働や夜勤回数の多さで看護師の7割が「辞めたい」と思いながら働いている。実際に辞める看護師も多く、毎年、平均して10人に1人が離職している。

看護師派遣は地域医療の質の低下につながる

コロナで一層、看護師は追い詰められているが、それでも目の前の患者を救いたい一心で辞めない看護師もいる。退職する以外の方法で意思表明できるのが、看護協会の退会だったのだ。

救命救急の最前線にいるある医師は、「オリンピックにスタッフを派遣できるとすれば、この窮状でスキルのある人は出せない。スキルあるスタッフを出せというなら、地域医療は守られず、オリンピックのために自分や家族に対する医療の質が落ちるということへの国民的コンセンサスが必要なくらい大変なこと」と憤る。

そして、全国の医療従事者から「オリンピックに動員できる医療従事者や費用があるなら、今、目の前の患者を救うためにあててほしい」という強い要望の声が聞こえる。

看護師の「立ち去り型サボタージュ」。たとえその数が少なかったとしても、大きな意味があるだろう。本稿執筆現在、日本看護協会の広報部は、今春の退会状況について「公表しておりません」とし、オリンピックへの派遣要請については「(日本看護協会としての)状況や見解は公表しておりません」としているが、今後の対応に注目が集まりそうだ。

5月12日はフローレンス・ナイチンゲール生誕にちなんだ「看護の日」。前述した看護師確保法が制定されてから30年という節目の年だが、依然として看護師の労働は過酷だ。日本医療労働組合連合会が行った「2020年度 夜勤実態調査」では、3交代病棟の夜勤で月8回以内が守られなかったのが24.8%、2交代の夜勤で月4回以内が守られなかったのが35.6%という状態だ。これをきっかけに、看護師不足が引き起こす看護労働の本質的な問題に目を向けたい。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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