サムスンの絶頂期が永続するとは思わない--李潤雨・サムスン電子副会長
「今が本当の危機だ。グローバルな一流企業が次々と崩壊している今、サムスンもいつどうなるかわからない。今の事業や製品は、10年以内に多くが消える。そうなれば、また一から始めなければならない。躊躇している時間はない。前だけを見て進もう」
韓国サムスン電子の李健煕(イゴンヒ)前会長が3月、会長職に復帰し、経営の最前線に戻った。冒頭のメッセージは、世界の社員に向けて放った、ツイッターによる“檄文”だ。
李会長は不正資金事件で執行猶予付き有罪判決を受け、2008年に退いている。創業家とはいえ、引責辞任したトップが舞い戻るというのは、グローバル企業の中でも異例中の異例。しかも、サムスン電子の業績は決して揺らいでいないのだ。
同社の09年12月期連結売上高は約11兆円。営業利益率もかつてより減少したとはいえ、8%に上る。半導体、液晶パネル、携帯電話、そしてテレビと、収益柱をいくつも保持しており、世界シェア首位の座に君臨している。ソニーやパナソニックといった日本のライバルメーカーを、規模や収益力から見ても、まったく寄せ付けない。この絶頂期に、何が危機だというのか--。
サムスンを現在のガリバーに育てた端緒は、1997年のアジア通貨危機にある。
90年代初めまでは廉価な製品を作るアジアの新興メーカーの域を出ず、基幹部品の8割を日本など先進国から輸入していた。この“組み立て屋”経営は、ウォンが半値に急落した通貨危機で窮する。さらに財閥解体を進める当時の金大中政権の経営介入で、自動車事業売却など急激なグループ縮小を余儀なくされた。