日本の近現代史を正した「たった4票」の重み もし吉田茂、鳩山一郎、岸信介と続いていたら

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政治家・石橋湛山をテーマに講演する保阪正康氏(撮影:尾形文繁)
政治なんて関心がない。選挙はめんどうだから行きたくない。ほんの1年前までは、そんなふうに考えていた人が多かったのではないでしょうか。恥ずかしいですが、私もその1人。しかし、コロナ禍が長引き、連日、ワイドショーやニュース番組で取り上げられる政治家、都道府県知事たちの発言を聞くたびに、時にうなずいたり、「違うだろう」と突っ込みを入れたりするようになったのは、きっと私だけではないはず。ひとごとだと思っていた政治が、実は、自分自身の生活に大きく関わっていることを身に染みて感じたからだと思います。
そんな折に、このたび上梓された『石橋湛山の65日』の著者で、日本の近現代史に詳しい保阪正康氏の講演を聞く機会を得ました。まさに首相在任がわずか65日だった政治家・石橋湛山の話です。私たち若い世代が、いまの政治を考えるうえで学ぶべきことが多くあり、その一部をここで紹介します。

もし石橋首相の任期が、2年、3年と続いたら

去る2021年4月14日、東洋経済新報社創立125周年記念イベントで、『石橋湛山の65日』の著者である保阪正康氏の講演が、コロナ禍ということもあり、web配信で行われました。スタッフのみが集まる講演会の会場には、保阪氏の講演後に行うパネルディスカッションの登壇者、石破茂氏と船橋洋一氏も駆けつけ、メモを取りながら、真剣に耳を傾けていました。

『石橋湛山の65日』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

石橋湛山は、一般的にそれほど知られた政治家ではありません。保阪氏も冒頭で、「私は石橋湛山に会ったこともなければ、話したこともありません」と前置きしながら、それでも湛山に興味を持った理由を話します。

「太平洋戦争下であっても『東洋経済新報』の中で自分の持論をしっかりと述べてきた言論人としての姿と、戦後もその主張を貫き、具現化しようと奔走した志ある政治家としての姿、彼のこの2つの姿を描くことによって、石橋湛山の首相の任期がもし65日でなかったとしたら、例えば2年、3年と首相を務め、実績をあげていたとしたら、現代の日本社会はまったく違う風景になっていたのではないかという考えが、どうしても頭から拭えなかったからです」

そう、湛山の首相在任期間はわずか65日。伊藤博文から現在の菅義偉までの63名いる歴代内閣総理大臣の中で、在任期間が3番目に短い首相です。短いがゆえに、首相としては大きな功績をあげたわけではありません。ではなぜ、保阪氏は頭から拭えないほどの強烈な興味を抱いたのでしょうか。

「湛山が東洋経済新報社で言論人として活躍した戦前から太平洋戦争下の日本は、急速に帝国主義に傾倒していた時代であり、当時としては危険なものだったはずです。その危険を顧みずに自分の意見を書き続けた。私は、こういう人が日本にもいたのだと、感服したのです。その湛山が戦後、政治家になって言行一致、つまり戦前に主張していた自分の意見を政治家として具現化していきたいという志を持った首相を描きたかったのです」

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