育ったのは“平凡な”家庭
「両親や周りの人からは『都内の賢いお坊ちゃんお嬢ちゃんがクラスメートだよ。落第だけはしないでね』と言われたのです。置いていかれないように頑張って勉強したら、学年で1番になっていました。でも、中学生の頃までは自分が有名な大学に行けるとは思っていませんでした。女子大で栄養士の資格を取って料理上手になったら稼ぐ旦那さんと結婚できるかな、という気持ちでしたね」
転機は高校1年生のときに学校で受けさせられたZ会の東大模試だった。結果はなんと「東大A判定」。西村さんはがぜんやる気になった。
「学年の半数がA判定だったので、冷静に考えるとかなり甘めの評価だったのでしょう。その気にさせてZ会の東大マスターコースに誘導することが目的だったのかもしれません(笑)。でも、このままの判定をキープしていたら何とかなるのではないか、とも思いました」
ただし、将来の仕事に関してはキャリアを積んでいくイメージはまったく湧かなかったという。
「薬剤師になれたらドラッグストアで働き続けられるかな、と思っていました。うちの母はパートですし、身近にキャリア女性のモデルケースはまったくいません。大学に入るまでは女性に(総合職としての)仕事があるとは思っていませんでした」
そんな西村さんの仕事観が一変し、官僚になることを意識し始めたのは、東大の合格発表の日だった。電車を乗り継いでひとりで結果を見に来た西村さんの周りには、母親と手をつないで来ている男子学生の姿がいくつも見られた。
「『ママ、僕、受かっているかな?』とお母さんにすがりついている男子たちを見て、余裕になりました。女子なのにひとりで来た私は合格して当たり前だと。入学してからも、その自信がなさそうな男子たちが『僕、官僚になる!』と言っているのを見て、『この人たちに国を任せてはおけないなー。私のほうが度胸があるし』と思いました。とりあえず受けてみて、採用するかしないかは政府が決めればいいんですから」
現在、所属する省庁の採用面接の際も、控室で同席した2人の男子学生は天皇制度に関する難しい議論をずっとしていた。西村さんは「やっぱり特別な人が官僚になるのかな」と不安を感じたが、結果としては西村さんだけが合格した。
「私みたいに平凡な人は国家一種試験をあまり受けないのですが、本当は普通にコミュニケーションできる人が政府に求められているのだと思います。私が採用されたおかげで周囲の意識が変わり、サークルの後輩たちがたくさん試験を受けてくれたんですよ。みんな合格しました。私がキャリア官僚のハードルを下げたのです(笑)」
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