国益に帰するいい話だと思う。現在、東大生の中でも官僚を志す人が減っていると聞く。頭が切れるだけでコミュニケーション能力が低くて、民間企業に採用されない人材だけが官僚になるようでは困る。
西村さんの周囲には、明るくて遊び好きな男女が多いようだ。もちろん、基礎的な学力は高い。学問ではなく実務の世界に属し、社会に対する直接的な影響力も大きいキャリア官僚には、西村さんのような「普通の人」になってほしい。
睡眠時間は3時間? やっぱり官僚は激務
ただし、業務内容は普通ではないようだ。今回の取材は夜9時スタートだったが、「暇で平穏な1日だった」と振り返る西村さん。深夜3時過ぎまで働いて「平日は3時間眠れたらラッキー」という毎日が何カ月も続くこともある。ある男性とデートの約束をしたときは、4回連続でドタキャンすることになり、「そんなに忙しいのなら無理しなくていいよ」という捨てぜりふを最後に連絡が取れなくなってしまった。
「あの頃は自分のことで精いっぱいだったので、反省すらしませんでした。でも、こうやって婚期が遅れていくんだなと思います」
両親も歳をとってきて「早く結婚して安心させてあげたい」と思うようになった西村さん。その恋愛状況は後述するとして、なぜそんなに忙しいのかを聞いておきたい。
「法案を書く時期がとりわけ大変です。単語や言い回しを日本にあるすべての法令とそろえなければなりません。審査するのは内閣法制局というめっちゃ頭がいい人たちがいる組織。法案の文章を説明に行くと、『この書き方だとこういう誤解を生みかねない』『この言葉はどういう意味で使っているの?』と何時間もかけて激詰めされます。宿題を大量にもらってきて、次に説明に行くのは翌日の10時だったり。当然、徹夜の作業になります」
提出日が早すぎるのは内閣法制局が意地悪だからではない。重要な法案なので国会提出を急いでいる場合もあれば、ほかの法案の審査スケジュールが控えているので、早めに審査を終えなければならないこともある。
「法律に付随する政令の作成も含めると、3~4カ月もこの毎日が続くことになります。精神的にも体力的にもかなりキツイです」
もちろん、場数をこなせば法案作成も上達し、職人的な喜びを覚えるようになる。
「自分が作った制度や法案が上司に『妥当な内容だ』と褒められて、問題なくサクサクと(上層部や国会審議までに)上がっていくとうれしいですね。妥当とは、社会的な意義があって法律的に不備がない、という意味です」
キャリア官僚として国を支える使命感に燃えるのは、国民の安全にかかわる緊急事態が起きたときだ。東日本大震災の際、西村さんは緊急対応を行う部署におり、重要な情報が集まってくる立場にいた。
「政治判断がなくても、法律の範囲内で公務員がやるべきことは大量にあります。私が持っている情報を必要な部署に渡すために、文字どおりに走り回りました。あのときは『今、私が倒れたりしたら本当にヤバい。絶対に倒れられない』という気持ちでした」
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