KDDIが単独製作で仕掛ける「配給と配信の融合」 映画「FUNNY BUNNY」は劇場と配信で同時公開

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そこで相談したのが、KDDIも出資している映画『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~』(近日公開予定)のメガホンをとった飯塚健監督だった。彼は、2012年に演出した舞台「FUNNY BUNNY」の映画化が数年来の夢だったということもあり、題材はスムーズに決まった。主演の中川大志も、高校生のときに、飯塚監督が執筆した本作のノベライズ版を読んで以来、映画化を希望していたとのことで、本作のオファーを快諾。それぞれのピースがタイミングよくハマっていった。

ちょうどコロナの影響で、映像作品撮影の延期や中止が相次ぎ、俳優たちのスケジュールも流動的だったが、年が明けるまでには主要キャストがほぼ決定。そのままの勢いで撮影が行われ、3月には映画を完成させる。

宣伝用の映像なども、撮影現場で撮影したメイキング映像から特報映像を作るなど、飯塚監督が「普通じゃないスピード感」と語るほどの、めまぐるしい速さでプロジェクトは推し進められた。懸念だった上映館も、24館で上映することが決まった。

配信は映画館にとって代わるものではない

一般公開に先駆け、3月30日には東新橋のニッショーホールで観客を招待した完成披露試写会が行われた。そして同日に「auスマートパスプレミアム」および動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」での先行配信も24時間限定で行われた。観客の反応も上々で、鑑賞後のSNS投稿では「次は違う媒体で観てみたい」という好意的な声も寄せられたという。

映画のプロデューサーを務めるKDDIの金山マネージャー (筆者撮影)

「auスマートパス」と、上位サービスである「auスマートパスプレミアム」を合わせた会員数は、2020年12月末時点で1555万人に達している。その顧客に向けた宣伝アプローチのノウハウは、これまで数々出資してきた映画作品で培ってきた。

本作でも、ポスタービジュアルのファン投票キャンペーンや、3月30日の先行配信映像を観ながら映画について語るClubhouseイベント、そして指定された電話番号に電話をかけると、劇中に登場する中華料理屋につながり、登場人物たちのメッセージを聞くことができるサービスなど、通信会社ならではのユニークな試みを行い、好評を博した。

今回の映画館&配信の同時リリースという試みについては「映画館にとって代わるものではない」と語る金プロデューサー。「映画館には映画館ならではの体験価値がある。配信でのリリースはあくまで劇場での公開を補完するもの。映画館で観た作品をもう一度、配信で観ることもできるし、映画館がない地域の人にも作品をお届けすることができる。新しい観客を掘り起こすことで映画人口の裾野を広げることができないかと思う」と語る。

その一方で、「それをビジネスも含めて軌道に乗せるには一方だけでは駄目。両方とも数字をあげないと意味がない」と力をこめる。

映画館への配給と、ネットでの同時配信の今後を見据えるうえで、『FUNNY BUNNY』の取り組みが試金石になっている。作品の中身だけでなく、その成否についても注目といえるだろう。

(一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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