この証明には「北京健康宝」というアプリが必要なのだが、インストールしても外国人には対応していない。中国人のID「身分証」にしか対応しておらず、外国人のパスポート番号は選択肢にないのだ。
後でわかったことだが、外国人向けには「Health Kit」というアプリがあり、それを利用しなければならなかった。ところが、警察署の前に立つ保安員にはそんなことを知らないし、知らされていない。「北京健康宝」がOKサインを示せない者は入れてはいけないの一点張りだ。
内国人向けや外国人向けと、いろんなアプリが出てきて情報を入力させる中国。そんな情報は確かに「管理」のために使われるのだが、その大本のデータベースに政府側のすべての人間がアクセスできるわけではない。例えば保安員のような末端の人間には情報が知らされておらず、「北京健康宝のOKサインが出ているかどうか」でしか判断できないようなシステムなのだ。
情報の管理・伝達で機能不全が見られる社会
「NO」が出て、その理由を聞いても、担当者は「知らない」と言うしかない。「OKが出ないと通すなと言われている。それが仕事だ!」というわけなのだろう。いずれにしろ、内国人向けのアプリに相当する外国人向けアプリを自分で見つけられない外国人は、中国の公的機関はもとより、どんなショッピングモールやレストランといった人の集まる所にはどこにも入れないということになる。
ここでも、先ほどの「スマホが使えない人は……」という考えをする人はいない。使えなければ生きていけない。まさにネズミを捕る猫にならねば生きていけないのがこの中国なのだ……。
いろんな手続きを終えて帰宅すると、今度は北京市朝陽区役所から連絡が来る。「いつ、どの便で入国して、いつ北京に入ったかを教えてくれ」というのだ。入国前からこのような情報は散々書いてきたのに、データのひも付けがここでもできていない。データは収集しても共有されていないのだ。
隔離生活がようやく終了し、買い物に出かけてみた。バスに乗るときも携帯アプリで乗り降りする。ショッピングモールに入るときには前出の「Health Kit」アプリをかざし、買い物の支払いは「WeChat Pay」でキャッシュレス決済をする。当然ながら、それら情報は政府に筒抜けになる。中国は企業に対して「国が要請すればすべての情報を提供しなければならない」という法律があり、企業が自主的に「個人情報を保護する」というわけにはいかない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら