なぜNHKが独走?「歴史番組」の知られざる歴史 民放地上波では短命に終わってしまう理由

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さらにBSプレミアム「英雄たちの選択」も画期的な番組だ。「その時歴史が動いた」とも共通する、歴史のターニングポイントで人が何をどう決断したのか、逆に別の方法をとったとしたらその後の歴史はどう変わったかを、実際に複数の選択肢として提示するというアプローチが、毎回歴史好きの胸を熱くする。

歴史上の人物のパーソナリティを、単なる史実からだけでなく、その内面の心理にまで分析を加えていくというのは、かなり踏み込んだ手法だが、準レギュラーの脳科学者の中野信子、そして経済学者の飯田泰之、作家の高橋源一郎など毎回多彩な知識人が各人の専門領域からさまざまな仮説を提示しつつ、「私ならこの選択肢をえらぶ」という落としどころは番組開始以来不動のスタイルだ。

もう1つ記しておきたいのは、2009年4~5月に第1シリーズ計8回が放送され、のちに映画化もされた「タイムスクープハンター」だ。大枠は「歴史SFドラマ」の体裁を取ってはいるが、ドキュメンタリー的な手法を用いて、名もなき人による知られざる歴史の“真実”を描いたという点で、歴史番組の最も先鋭的なスタイルを提示したといえよう。

テレビの歴史番組はあくまで入り口

歴史を知ることは、それ自体興味深く、楽しい。しかし得た知識を「今」にどれだけ生かせるかが、より肝心なのだ。わかりやすく言えば「温故知新」。かつて「その時歴史が動いた」のディレクター、「歴史秘話ヒストリア」のチーフ・プロデューサーを務めた渡辺圭氏は、『調査情報』(09年・490号)で筆者にこう語っていた。

「アカデミックな意味での歴史の学習は、本を読んだり調べたりという形でするべきだと思っているんです。テレビは時間が限られているメディアで、毎回提供できることはごくわずかなんです。言い換えれば、テレビの歴史番組はあくまで入口に過ぎない」

この言葉に尽きる気もする。あくまで入り口に過ぎないかもしれないが、他のあらゆるメディアよりも、テレビはこれまで蓄積されてきた手法によって、歴史への興味を強くかき立てられるメディアであるはずだ。特に近年、頻発する災害や疫病、デリケートな世界情勢を見るにつけ、近視眼的に陥る危うさから自らを守るためにも、歴史から学ぶ姿勢がより求められている、と言っておきたい。

(文中一部敬称略)

鈴木 健司 メディア・ライター/「GALAC」編集長

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すずき けんじ / Kenji Suzuki

1963年生まれ。出版社勤務、ミニコミ誌運営を経てフリーに。2020年9月号から「GALAC」編集長。

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