日本の「国産ワクチン事業」があまりに遅い真因 「過保護なワクチン政策」では国民は守れない

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VLPワクチンは実際、海外ではすでにさまざまな感染症で実用化され、迅速かつ大量に製造されている。新型コロナでも、田辺三菱製薬のカナダ子会社メディカゴが、英グラクソ・スミスクライン(GSK)と共同で、アジュバント添加VLPワクチン(植物由来)を開発した。現在、カナダとアメリカで第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(後期)を遂行中だ。

アメリカのFDAは今年2月、このワクチンを優先承認審査(ファストトラック)に指定した。カナダ保健省も4月、結果を待たずに臨床試験データをリアルタイムで評価する措置(逐次審査)を認めた。

新型コロナは、こうしてワクチンの世代交代を一気に、世界規模で後押ししたのである。

さて、日本はどうすればいいのか。

新型コロナワクチンに関して言えば、どうせ先が見えているなら、だらだらと交付金をあてがい続ける前に、潔く諦めるべきだ。国内を志向する限りビジネスは成り立たないし、当然ながら海外向けも遅きに失する。

そのうえで、2つの課題について反省し、対策を講じ、次に活かすしかない。

「供給」が遅れているのではない

反省すべき1つ目は、「なぜこんなに海外ワクチンの供給が遅れているのか?」だ。

日本政府は昨年夏から米英のワクチンメーカー3社と交渉し、全人口をカバーできるだけのワクチンを確保できたはずだった。その約束が反故にされたわけではないらしい。政府は供給の遅れについて「3月末からEUがワクチンの域外輸出を規制したことで、輸入が大幅に遅滞しているため」であると説明してきた。

ところが、4月22日付のブルームバーグによれば、EUから1月末以降、日本向けに5230万回分の新型コロナワクチンが出荷されていたという。合計1億3610万回分の出荷先のうち断トツ1位で、2位の英国向け1620万回分を大きく引き離している。

首相官邸が発表している国内の接種実績(4月25日まで)は、医療従事者と高齢者合わせてやっと270万回超というところだ。残りの5000万回分弱は今どこにあるのだろう?(この原稿を書いている4月27日時点で「誤報」との情報もあるが……)

そこで思い返されるのが、国内での臨床試験だ。ファイザーのワクチンは、英国では12月上旬に接種が開始されたが、日本は国内で改めて臨床試験を行い2月中旬にやっと承認された。すでに約4万人の被験者で安全性と有効性が示されたワクチンにもかかわらず、平時の手続きに固執した結果だ。

国内では160人が被験者となった。だが、たかだか160人に接種したくらいでは、何万~何十万接種に数件レベルの重篤な副反応は、適切に確かめられない。海外のワクチンメーカーにしてみれば、この非常時にただの「面倒な客」でしかないだろう。

EUから日本に出荷された中には、ファイザー以外にモデルナやアストラゼネカのワクチンも含まれるだろう。両社のワクチンは国内承認が下りていない。

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