日本の「国産ワクチン事業」があまりに遅い真因 「過保護なワクチン政策」では国民は守れない

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アジュバントは、ワクチンの効果(免疫原性)を高めるために添加される物質だ。生ワクチンが主流だった頃はそれだけで強い効果が得られたが、病原体の一部の成分のみ精製して接種する昨今のワクチンは、安全性は高まったがそれだけでは効き目が弱い。そこでアジュバントが必須となる。

ちなみに先日、海外での承認申請について報道のあった武田薬品のデング熱ワクチンは、生ワクチンだ。アジュバントを必要とせず、なおかつ海外での優良な先行品がないワクチンを狙っていったあたりは、さすが“外資”である。

ベンチャーと違って体力のある武田薬品だからこそできたことだが、それでも武田の財務状況の悪化を考えれば、同じ路線を突き進めるかどうかは非常に怪しい。

コストと価格が問題

もう1つの問題は、やはりコストと価格だ。

「単純に生産のコストでは韓国にさえ勝てません。具体的な設備費用はわかりませんが、生産タンクがあったとしても、たかが1回数千円のワクチンを作るために投資するより、薬価の高い薬の生産を考えるでしょう」

「例えばBCGワクチンは、まったく同じ成分が『イムノブラダー』という膀胱がん治療薬として市販されています。BCGは1回3000円、イムノブラダーは1万4667.8円です。薬として売り出したほうが3倍以上儲かる。儲けを上げるのが企業の本質ですから、当然の判断です」

とくに新型コロナでは、こうしたコストの問題が国産ワクチンの先行きに暗い影を落とす。

「抗がん剤なら『がん患者はどの程度いて、薬価がいくらになるので、これぐらいの投資で生産ラインを作ろう』などとマーケティングできます。しかし新型コロナの場合は、どの程度の人が接種するかわかりません。すでにボロ負け状態のところからわざわざ追いかけて勝負するのは難しいと、どこかの時点で経営判断を迫られることになるでしょうね」(以上、製薬OB)

低コスト・低価格路線が無理なら、1回接種で済むRNAワクチンや、確実に副作用の少ないワクチンを作ってはどうか、というアイデアもあるかもしれない。と言いつつ実際には、この期に及んで既存ワクチンの覇権を覆すほどの優位性は、いずれも得られないだろう。

今後、半永久的にコロナが変異を繰り返していくことを考えれば、どんなコロナにも効く“ユニバーサルコロナワクチン”を開発できるなら、話は別だ。だが、新型コロナの変異スピードとねずみ算的な拡大を考えれば、現実的には難しい。

状況を客観的に見る限り、国産の新型コロナワクチンはビジネスとしての成立は困難だ。「頓挫」は決して大袈裟な見立てではないのである。

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