日本の「国産ワクチン事業」があまりに遅い真因 「過保護なワクチン政策」では国民は守れない

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あきれるのは、独り立ちできる見込みの薄い国産新型コロナワクチン事業に対し、60~223億円という莫大な交付金が拠出されていることだ(先の表)。海外向けワクチンを開発できないジリ貧のワクチンメーカーを、税金をジャブジャブ投入して延命しても、先は見えている。

過保護な政策が、国内メーカーの国際競争力を奪ってきたことは、さんざん言い尽くされてきた。特に日本が大転換のチャンスを逃したのは、新型インフルエンザの時だろう。

国立感染症研究所によれば、2009~2010年の新型インフルエンザ(H1N1)の世界的流行の際、わが国でも推計約2059万人超が感染、200人超が亡くなっている。

ただ、この数字は政府が恐れていたよりずっと小さかった。2004年時点で厚労省は、「人口の25%(約3000万人)が感染した場合、最大で約2500万人が治療を必要とし、入院患者は43万人、死亡者は10万7000~16万7000人に達する可能性」という試算を発表していたくらいだ(読売新聞、大分大学医学部HPより)。

戦々恐々の厚労省は2009年、1190億円(1事業当たり200~400億円)の交付金を投じて、新型インフルワクチンの開発・生産体制の整備に乗り出した。従来の鶏卵培養法から細胞培養法への移行を図る実験事業では、古参メーカー3社と新規メーカー1社が採択された(厚労省)。

唯一の新規参入メーカーだったUMNファーマは2014年、細胞培養より一歩進んだ、昆虫細胞とバキュロウイルスを使った遺伝子組み換えワクチン(ウイルス様粒子[VLP]ワクチン)をPMDAに承認申請した。鶏卵培養だとワクチン製造に約半年かかるところ、この方法なら1~2カ月に短縮できる画期的技術だ。

UMNファーマは当時、最大8000万人分のワクチン生産能力を有する工場を擁し、同社の季節性インフルワクチン原液はその後、仏サノフィの子会社(アメリカ)の製造する「Flublock」(組換えインフルHAワクチン)に提供された。ところがPMDAは明確な理由を示さないまま、UMNファーマの申請を3年間放置し、同社は2017年に取り下げを余儀なくされた。

こうして遺伝子組み換え技術による次世代のワクチン開発は、国内では大きく停滞したのだ。

世界のワクチン開発競争から2周回遅れ

そのツケが回ってきたのが新型コロナである。昨年1月、新型コロナワクチンは鶏卵培養による開発が困難であることが判明した。別の手法を使った新型コロナワクチン開発には、先のとおり4社が挙手したが、世界のワクチン開発競争からは周回どころか2周回は遅れることとなった。

新型インフルで突っぱねたUMNファーマのVLPワクチンを、今度ばかりはPMDAも認めざるをえないだろう。

UMNファーマは昨年3月、塩野義製薬の完全子会社となった。同8月には、もともとUMNファーマの子会社だったUNIGENが、塩野義の新型コロナワクチンの受託製造を開始。わずか8カ月で年間1000万人分の生産能力を確保する予定とも報じられた。交付金の金額も、塩野義製薬は他3社の約2.7~3.7倍に上る。

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