「安定した仕事」捨てるエリート層が続出のワケ 広がる「YOLO(人生は一度きり)」のマントラ
「今の人生が本当に自分の望んだ人生だったのかどうか、(コロナ禍の)この1年は私たちの全員にとって、そうしたことを見直す時間になった」とハーバード・ビジネス・スクールのクリスティーナ・ウォレス上級講師は指摘する。「中でも、懸命に働いてローンを返済すれば、いつか人生を楽しめるようになると言われてきた若者の多くが、そうした人生の方程式に疑問を抱くようになっている」という。
このままだと人材が大量に流出しかねない——。そんな恐怖感を募らせた企業は、従業員が燃え尽きるのを防ごうと、やる気アップの策を次々と打ち出すようになっている。リンクトインでは最近、従業員の大多数に1週間の有給休暇が与えられた。ツイッターでも「#DayofRest」(休息日)というプログラムの下、月1回の追加休暇が従業員に付与されるようになっている。
金融大手のクレディ・スイスはジュニアレベルのバンカーに2万ドル(約215万円)の「ライフスタイル手当」を支給。投資銀行のフーリハン・ローキーは、従業員の多くに全費用会社持ちのバケーションを提供した。
YOLO主義がエリート層にも伝播
昇給や休暇によって一部の従業員はつなぎ止められるかもしれない。しかし、中には停滞した会社人生そのものが問題になっており、抜本的な変化以外に解決策がないという人もいる。
「これまでの10年間はキャリアに縛られすぎていたと思う。でも、今はそれを切り替えるチャンスだ」。大手アパレル企業でバイヤーをしているネイト・モーズリーさん(29)はそう話す。
モーズリーさんは先日、年収13万ドルの仕事を6月1日までに辞めることを決意した。会社が従業員に6月1日からのオフィス出勤再開を命じたためだ。
職場に幻滅した人々は、お金に余裕さえあれば、いつだって自分の人生を見直そうとするものだ。そしてYOLOを合言葉に冒険に飛び出した人々も、貯金を使い果たしたり、新たなビジネスが失敗に終わったりすれば、安定した以前の仕事に舞い戻ることになる可能性はある。
だが、YOLO主義者たちの大胆不敵な振る舞いは、普通ならキャリアの階段にしがみつくようなリスク回避型のエリートにも感染しつつあるように見える。