英国知識人を見事だました「嘘の台湾誌」の内容 希代のペテン師執筆、見抜いたのはあの科学者

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作者の妄想で書かれた『台湾誌』をめぐる興味深い話をお届けします(写真:bedo/iStock)
かつて一般に受け入れられたものの、現代では「奇書」になってしまった書物はたくさんあります。奇書研究家の三崎律日氏が挙げるとんでもない奇書の1つが、1704年にロンドンで出版された『台湾誌』です。作者は自称・台湾人のジョルジュ・サルマナザールで、彼が幼少期を過ごした台湾の地理、民族、歴史などを詳細に記した書物です。これは当時の様子を伝える文献として、重要な歴史資料といえます。ただし、この本がすべて作者の“妄想”で書かれた点だけ除けばですが……。
※本稿は三崎氏の近著『奇書の世界史』を一部抜粋・再構成したものです

「日本人」として生きることを思いつく

ジョルジュ・サルマナザールは、1680年頃に南フランスで生まれました。本名はわかっていません。幼少期は、修道士が開く寺子屋のような場所でさまざまな学問に触れ、宗教学や論理学、ラテン語の才能を開花させます。

宗教学や論理学、ラテン語に精通していたサルマナザール(写真:GRANGER.COM/アフロ)

その後、サルマナザールもまた地域の家庭教師として生徒の指導を行うようになりました。ところが、訪問先の生徒の母親から誘惑されるといったことから、自分の職に嫌気がさし、身分を修道士と偽りながらヨーロッパ各地の放浪を始めるのです。

旅を続けるなかで、イエズス会派の宣教師たちとも交流を持ち、ある時、遠い異国の「日本」なる国の話を耳にします。ニセ修道士として、その日暮らしの生活に限界を感じていたのか、サルマナザールは突如、「日本人」として生きることを思いつくのです。

その後、食い扶持を稼ぐためにスコットランド軍の新兵募集に応募しました。日本人を自称する謎の異教徒に対して、兵士らは各々宗教的な議論を持ちかけます。もともと博覧強記で頭脳明晰の“日本人”は、簡単に相手を煙に巻きます。

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