英国知識人を見事だました「嘘の台湾誌」の内容 希代のペテン師執筆、見抜いたのはあの科学者

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人を喰ったような振る舞いのせいか、サルマナザールの噂は上官の興味を引き、当時の連隊長官に呼び出されることになりました。そこに同席していたのが、のちに「この世で最も聖職者にふさわしくない者」と評される、ウィリアム・イネス従軍牧師です。

同族同士に通じる嗅覚ゆえ、イネス牧師はひと目で彼のペテンとウソを突き通す才能を見抜きます。そして2人きりのときを見計らってある課題を出しました。

イネス牧師「あなたの日本語に関する知識は驚くべきものだ。ちょっとこのキケロ(ローマ共和制末期の政治家、文筆家、哲学者)の文章を日本語に訳してはもらえないか?」

サルマナザール「お安い御用だ!」

サルマナザールは“日本の文字”で書いたとする、まったくのでたらめな文章を即興で書き上げ、イネス牧師に差し出しました。

イネス牧師が発した意外な言葉

ところが、イネス牧師が次に発した意外な言葉に度肝を抜かれます。

イネス牧師「ありがとう。ではもう一度、同じ文章を日本語に訳してもらいたい」

サルマナザール「何!? お、お安い御用だ」

創作で作り上げた“日本文字”を再現しろと言われ、サルマナザールは狼狽を隠しつつも、直前の記憶を振り絞って書き上げました。しかし当然、同じ文字を再現できるはずがありません。

イネス牧師「あなたのペテンを世間にばらすつもりはありませんよ。それより、私にも一枚かませてください」

……と、このようなやり取りの末、イネス牧師による「ペテン師・サルマナザール」のプロデュースが始まりました。

イネス牧師はまずサルマナザールに対して、宣教師たちがすでに多数赴いている日本人ではなく、「台湾人」を名乗ることを勧めます。そして、自ら洗礼を施すことで「祖国を離れ、偉大なるイギリスへ流れ着いた博識な台湾人」という経歴でイギリス国教会へ入信させました。英語と完全に対応させた独自の「台湾語」も作り出し、万全な地固めを行っています。

周囲の人はサルマナザールに夢中になりました。英語とラテン語を流暢に話し、いままで聞いたこともない「台湾語」を操る異邦人の魅力に取り憑かれてしまったのです。

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