雨宮塔子「子どもにごめんねと言いがちな親へ」 3年間の単身帰国、私は葛藤とこう向き合った

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この託児所での初日は、心細そうな表情を浮かべてはいたものの、それでも泣かずに楽しく過ごしていたのに、いざ幼稚園となるとそこは親戚のおばさんが遊び相手になってくれるような託児所の雰囲気とは一変します。たまらなく不安なのか、私から離れようとしない娘を先生が引き離しながら、「振り返らずに去ってください」と急かされます。

先生に引き離されながらもこちらに手を伸ばし、ポロポロと涙をこぼしていた姿が頭から離れず、送り出して20分あまり門の前でウロウロした挙句、幼稚園の壁をこっそりよじ登って(違反覚悟です)教室内を覗き見ると、先生が体育座りをした子どもたちに絵本を読み聞かせていました。その輪から離れたところでポツンとひとり、パズルをしている娘の姿が目に入ったときの引き裂かれるような痛みは、今でも鮮明に覚えています。

言葉が通じない娘ひとりに先生がかまけている時間はないのでしょうが、それにしてもドライすぎる……。その憤りは自分にも向かいました。あの慣らし保育は何だったのだろうと。子どもは親とべったり一緒にいたがるものだというのは親のエゴで、もっと早くから、もっと頻繁に託児所に通わせていれば、娘は園生活に軟着陸できたのではないか、と。

ですが、それも杞憂に終わりました。娘は2週間もすると、言葉が通じないながらもお友達ができ、園生活に馴染んでいったのです。子どもの適応力には目を見張るものがありますから、安心して保育者の方に預けて大丈夫なのです。

お母さん、お父さんの仕事の「協力者」

以前、たまたま目にした現役の保育士さんのコラムで強く心に残っているものがあります。初めての保育園への登園の際に子どもが泣いて離れないとき、かわいそうに思って「ごめんね」と口にするのではなく、しっかり顔を見て笑顔で「行ってきます」とさっぱりと園を出てみてほしい。

そしてお迎えのときもお母さんの顔を見て子どもが泣き出したとしても、笑顔で「ただいま。待っていてくれてありがとう」と声をかけ、抱きしめてみてくださいーー。そう綴られていました。

「ごめんね」という言葉は「悪いことをしたときに謝る」という意味で理解している子どもが多いので、子どもに被害意識を感じさせてしまう。一方、「ありがとう」は「感謝」を意味します。「ありがとう」の声を聞いた子どもは、たとえ寂しい思いをしたり、泣いたりしていてもそれでも園で元気に過ごしていたことを感謝されたと感じ、大好きなお母さん、お父さんの仕事の「協力者」なんだと感じ取っていくとのことでした。

とても深く共感しました。というのも私はそれを身をもって経験していたからです。

私は2016年からおよそ3年間、子どもたちをパリに残して単身日本に帰国し、平日の帯のニュース番組に携わりました。この決断については応援してくださる温かい声以外にも、当然さまざまなご批判もいただきました。

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